「ブルーズ入門 : ミシシッピ・デルタ・ブルーズの才人」The Complete Early Recordings 1930 : Skip James / ザ・コンプリート・アーリー・レコーディングス 1930 : スキップ・ジェイムス

 スキップ・ジェイムスは第2次世界大戦前のブルーズ発祥の時から活動していたブルーズマンです。
ミシシッピ州ペントニアという所の出身でギター、ピアノを演奏する作曲家でもあります。
ギター演奏はオープンDマイナーチューニングで、それを複雑なフィンガーピッキングスタイルで演奏し素晴らしい才能を発揮しました。
この奏法は師匠であるヘンリー・スタッキーというブルーズマン(未録音)から受け継いだものです。
ちなみに使用ギターはこの時代のブルーズマンの象徴のような安物のステラギターです。

来歴

本名はネヘマイア・カーティス・ジェームスといい、1902年6月9日に生まれました。
母親フィリスはヤズー市近郊のウッドバイン・プランテーションで料理人兼ベビーシッターで働き、父親エディ・ジェームスは密造業者で悪名高かったのですが、1907年に改心して説教者(プリーチャー)になりました。

スキップ・ジェイムスは1920年代はアーカンソーで密造、ギャンブル、密輸入などの悪いことばかりしていたそうですが、1929年にペントニアに戻り、音楽活動をしながら人にギター、ピアノ、ヴァイオリンを教えていたそうです。(ツッコミどころ満載でにわかには信じられません。多分本人の弁で、自己申告の話だと思います)
1931年にパラマウントに録音しましたが、おりしもレコードが出回った際に大恐慌が発生し、売上は低迷します。
ジェイムスは仕方なく父親の教会の聖歌隊指揮者になりました。

1960年代に入ると音楽界はルーツ探しが盛んになります。
スキップジェイムスは死亡説が圧倒的で、すでに亡くなっていると思われていました。
しかし1964年、ブルーズ愛好家のジョン・フェイヒー、ビル・リヴァース、ヘンリー・ヴェスタインによってサンハウス(こちらも偉大なるブルーズレジェンドです)と同時期にミシシッピ州で再発見されました。

その後はコンサートやレコーディングなど音楽活動を続けましたが、1969年10月3日、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアで癌で亡くなられました。67歳でした。

イギリスの1960年代のバンド、クリームがスキップ・ジェイムスの「アイム ・ソー・グラッド」をカバーして一躍有名にしました。
クリームは当時エリック・クラプトンがメインの「ハードロックの元祖」とか「サイケデリック・ハードロック・バンド」と呼ばれていました。
オリジナルとブルーズをアレンジして演奏するギター、ベース、ドラムスのスリーピース・バンドです。

で、とある日本の片田舎の高校生が興味を持っていました。彼が都会の学校に進学したときに念願かなってクリームのカバーしたスキップ ・ジェイムスというブルースマンのアルバムを手に入れたのです。

“スキップ する”   “ジェームスさん”   が “私は楽しい”  と歌うわけですからそれはそれは軽快なはずです。ラグタイム・ブルーズのブラインド・ブレイクなんか目じゃないくらいにノリがいいのだろうと思ってました。
「所詮イギリスのロックミュージシャンなんてもともとネクラな人たちだから、カバーしたところでオリジナルより暗く重いアイム・ソー・グラッドなんだろう」などと偏見の目で見ていたのです。

早速アルバムを聴いていきます。
1曲目から「デ ヴィル・ガット・マイ・ウーマン」「サイプレス・グルーヴ・ブルース」と続いていきますが、なんとも・・・ブラックホールに吸い込まれていくような暗さです。
この人の声は芯が無いような、頭の中でホワーッと響くような、腰からスーッと力が抜けていくような声なのです。
聴いていくほどにどうしようもない悲壮感、絶望感が湧き上がります。
「アイム・ソー・グラッド」もたいして明るくありません。
でも他にはない味わいではあります。

生涯、忘れられないミュージシャンとなりました。

アルバム「ザ・コンプリート・アーリー・レコーディングス・1931」のご紹介です。

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,    Devil Got My Woman デヴィル・ガット・マイ・ウーマン 

地獄の底へ落ちていくような声です。


2,    Cypress Grove Blues サイプレス・グルーヴ・ブルーズ 

引き続きスキップ・ジェイムスならではの悲痛なブルーズの世界です。


3,    Little Cow And Calf Is Gonna Die Blues リトル・カウ・アンド・カーフ・イズ・ゴンナ・ダイ・ブルーズ

ピアノを弾きながら歌っています。なんとなくロックンロールへ繋がるリズムです。


4,    Hard Time Killin’ Floor Blues ハード・タイム・キリング・フロアー・ブルーズ

ハウリン.ウルフ、ジミ・ヘンドリクスへ続くブルーズスタンダードです。絶望的な感じのブルーズです。


5,    Drunken Spree ドランケン・スプリー

カントリーの風味もあります。割と明るめの曲です。


6,    Cherry Ball Blues チェリー・ボール・ブルーズ

ライ・クーダーもカバーしていました。独特の世界です。


7,    Jesus Is A Mighty Good Leader ジーザス・イズ・ア・マイティ・グッド・リーダー

ブルーズというよりゴスペルです。プリーチャーらしい感じです。


8,    Illinois Blues  イリノイ・ブルーズ

スクラッチノイズの向こうから聞こえてくるブルーズです。


9,    How Long Blues ハウ・ロング・ブルーズ

ピアノで歌います。この曲もブルーズスタンダードとして歌い継がれていきます。



10,  4 O’Clock Blues  4オクロック・ブルーズ

曲調は違いますがこの曲の世界はB.B.キングなどへ続きます。


11,  22-20 blues 22-20ブルーズ

ピアノブルーズです。スキップ・ジェイムスの世界です。


12,  Hard Luck Child    ハード・ラック・チャイルド

これもスクラッチノイズの向こうから聞こえてくるブルーズです。


13,  If You Haven’t Any Hay Get On Down The Road イフ・ユー・ハヴン・エニ・ヘイ・ゲット・オン・ダウン・ザ・ロード

ちょっと粋な感じもあります。他のデルタブルーズミュージシャンにはない特徴です。


14,  Be Ready When He Comes ビー・レディ・フェン・ヒー・カムズ

信仰の歌です。ジェイムスさんにしてはほのぼのとした雰囲気もあります。


15,  Yola My Blues Away ヨーラ・マイ・ブルース・アウェイ

完成された形式に感じます。いかにもカントリーブルーズといった感じの曲です。


16,  I’m So Glad アイム・ソー・グラッド

ここまで聴いてくるとそれなりに明るく感じます。クリームのアレンジはさすがです。


17,  What Am I To Do Blues ワッツ・アム・アイ・トゥ・ドゥ・ブルーズ

音源がすごいノイズまみれです。でもいいんです。


18,  Special Rider Blues スペシャル・ライダー・ブルーズ

最後はいかにもスキップ・ジェイムスらしい曲で終わります。


Bitly

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