「時代に迎合しない求道者、ライ・クーダーのアメリカン・トラディショナルからさらに視線を広げた傑作です。」Chicken Skin Music : Ry Cooder / チキン・スキン・ミュージック : ライ・クーダー

 「チキン・スキン・ミュージック」は1976年にリプリーズ・レコードからリリースされたライ・クーダーの5枚目のスタジオアルバムです。

1960年代中期からキャリアを重ねているライ・クーダーの中でも一際(ひときわ)高評価なアルバムとなっています。

ライ・クーダーのデビューはタジ・マハールなどと「ライジング・サンズ」というブルーズロックバンドでした。
脱退してからキャプテン・ビーフハートやヴァン・ダイク・パークス、ローリング・ストーンズなどと共演し実績を重ねた後、1970年からソロ活動を開始していくことになります。

ライの音楽性というとソロ初期の、サードアルバム「ブーマーズ・ストーリー」あたりまではブルーズやフォークのカバー、およびアメリカの大恐慌時代のプア・ホワイトを彷彿させるようなフォークソングの世界をメインに掘り下げて行きました。

ただフォークと言っても綺麗なハーモニーなどを多用するヨーロッパ的なフォークではなく、大恐慌時代に棲家を追われ必死に生きていこうとする貧しい人たちをテーマにした、貧困、差別、時にはそれを笑い飛ばすような内容の曲のカバーでした。

前作1974年の「パラダイス・アンド・ランチ」あたりからブルーズやフォークを中心とするアメリカン・トラディショナルからさらにカリブや中南米あたりの音楽も取り入れるようになります。

ここでもメキシコの楽器バホ・セクストを使用したりハワイアン・ミュージックのスラックキー・ギタリスト、ギャビー・パヒヌイと共演したりとロックというジャンルにこだわらない、ワールド・ミュージックを展開しています。

というか敢えて既存のロックのフォーマットから距離を置いて、ジャンル、地域性などをミックスしたような音楽を意識しているように感じられます。

タイトルのチキン・スキン・ミュージックとはそのものズバリの「鳥肌音楽」ということです。

ライ・クーダーはギタリストなのでギタリスト目線での話をしますと、ギター・テクニックの一つにチキン・スキン・ピッキンというのがあります。

ゾクゾクっとするようなギターフレーズのことです。

有名なところではエリック・クラプトンの「ベル・ボトム・ブルーズ」のギター・ソロとかザ・バンドの「アンフェイスフル・サーヴァント」、これのライブにおけるロビー・ロバートソンのギター・ソロなどが思い出されます。

ギターをあまり歪ませないでタメを作ってピッキングの後に指でミュートさせるような感じで弾く、というエレクトリック・ギターならではの奏法です。


ロビー・ロバートソンによればシカゴ・ブルーズのハウリン・ウルフ・バンドのギタリストなどを参考にしているそうです。

実はライ・クーダーは指弾きということもありますが、ここではそういうチキン・スキン・ピッキングスタイルのギターは弾いていません。

どちらかといえばリラックスした中でのヴォリューム・アップとともに入ってくるスライドギターなどに「トリハダもの」を感じさせます。

リラックスした雰囲気の中での、いきなり感情が昂るような鳥肌ものの音が出てくるというところです。

1976年といえばトータル・コンセプト・アルバムなどでロックが大作主義の頂点にいた頃でもあります。
テクニック至上主義なども相まっていろんな意味で飽和していました。
そういう状況とは反対にニューヨーク・パンクのラモーンズがデビューし、ロンドンではセックス・ピストルズなどが出現します。

そんな混沌とした時代に、こんなリラックスした大人の音楽というアルバムはリリースされました。
とはいってもおしゃれでもなく、都会的でもないので絶対にAORとは呼べません。

そんな呑気で土着型の大衆感あふれる音楽を演っていたというところにも魅力を感じます。

評論家アンディ・チャイルズは1976年11月にイギリスの音楽情報誌Zig Zag(ジグザグ」に投稿しています。

「彼の音楽の明らかな質の高さはさておき、非常に形式化され、一般的に刺激のないロックンロール・サーカスから完全に距離を置いている点が、私にはとても魅力的に映る。…ここには実に多くの音楽があり、実に魅力的で啓発的な音楽がある。教育的であると同時に非常に楽しめるアルバムを本当に作っていると主張できる、いわゆるアーティストがどれだけいるだろうか?」。

タイム誌は、
「ライ・クーダーはアメリカを音楽で一つにまとめている…さて、彼は今、音楽の地平線を他の岸辺にまで広げており、おそらくまだ始まったばかりであろうが、その結果は同様にまとまりがあり…純粋な喜びであり、芸術作品ですらある」

と評しました。

アルバム「チキン・スキン・ミュージック」のご紹介です。

Amazon.co.jp: チキン・スキン・ミュージック - ライ・クーダー: ミュージック
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演奏

  • ジョージ・ボハノン
    バリトンホルンとホルンアレンジ「I Got Mine」
  • オスカー・ブラッシャー
    コルネット「I Got Mine」
  • レッド・カレンダー
    アップライト・ベース
  • ライ・クーダー
    バホ・セクスト、マンドリン、マンドラ、ボトルネックギター、フレンチアコーディオン、エrクトリックギター、スラック・キー・グター、ティブレ、ハワイアンギター、ヴォーカル
  • クリス.エスリッジ
    ベースギター
  • ジミー・アダムス
    ボーカル
  • テリー・エヴァンス
    ボーカル
  • クリフ・ギブンス
    ボーカル
  • ローレンス・フィッシュバーン
    ボーカル
  • ヒューゴ・ゴンザレス
    バホ・セクスト「グッド・ナイト・アイリーン」
  • ミルト・ホランド
    パーカッション、ドラム
  • アッタ・アイザックス
    スラックキーギターとアコースティックギター「クロエ」
  • フレッド・ジャクソン・ジュニア
    テナーサックス「I Got Mine」
  • フラーコ・ヒメネス
    アコーディオン「He’ll Have to Go」、「Stand By Me」、「Goodnight Irene」
  • ハーマン・E・ジョンソン
    ボーカル
  • ジム・ケルトナー
    ドラム
  • ボビー・キング– ボーカル
  • ヘンリー・オヘダ
    ベース「グッドナイト・アイリーン」
  • ギャビー・パヒヌイ
    スティールギター「イエロー・ローゼズ」と「クロエ」
  • ペニー・ハウエル
    トロンボーン「I Got Mine」
  • パット・リッツォ
    あるとサックス「He’ll Have to Go」
  • ラス・タイトルマン
    バホ・セクスト「スタンド・バイ・ミー」
  • フランク・ビジャレアル
    アルトサックス「グッドナイト・アイリーン」
  • アイザック・ガルシア
    ドラム「グッドナイト・アイリーン」

テクニカル

  • ライ・クーダー
    プロデューサー
  • ジュディ・マイゼル、トゥルーディ・ポーチ
    制作コーディネーション
  • リー・ハーシュバーグ
    エンジニア、ミキシング担当
  • ロイド・クラフト
    エンジニア
  • ボビー・ハタ、ジョン・ニール
    アシスタントエンジニア
  • チェット・ハイムズ、ジョン・イングル
    エンジニアリング
  • ケニー・プライス
    アルバムカバー、デザイン、挿絵
  • スーザン・ティテルマン
    写真
  • ノエル・ニューボルト
    制作アシスタント

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

  1. The Bourgeois Blues  ブルジョワ・ブルーズ
    (レッドベリー)

    オープンチューニングのアコースティックギターのスライド弾き語りに始まり、ベース、ドラムと追加されていきます。
    もう安定のライ・クーダーの世界です。

    作者のレッドベリーは戦前(第2次世界対戦前)のブルーズの黎明期に活躍したミュージシャンです。
    ルイジアナ州ムーリングスポート周辺の農場で生まれました。
    レッドベリーのスタイルはブルーズの型が出来上がり前ですのでゴスペル、フォーク、ワークソングに近いものだったりします。
    この手のミュージシャンには珍しくギターは12弦ギターを使用しており、ギターの他にもピアノ、マンドリン、ハーモニカ、ヴァイオリン、ウインドジャマーと呼ばれるアコーディオンなどでも演奏しました。
    後世に与えた影響も大きく、ロックバンドにもよくカバーされる「ミッドナイト・スペシャル」や「コットンフィールド」の作者でもあります。
    一般的には「Leadberry = レッドベリー」と呼ばれますが彼自身は「Lead Berry = リード・ベリー」とステージネームは記入していたようです。
    本名はハリー・ウィリアム・レッドベターと言いますがレッドベリーという異名は刑務所でそう呼ばれていたからがそうです。
    彼は何度も投獄されており、脱獄もしています。
    一番長いのは殺人罪で7年間服役というのもあります。
    なかなかファンキーな人生です。
    「ブルジョワ・ブルーズ」は1939年に書かれたもので白人の富裕層を揶揄する内容です。
    反骨精神溢れるブルーズマンでした。

  2. I Got Mine アイ・ガット・マイン
    (トラディショナル)

    このナンバーもゆったり目のリズムでトークなども交えながら余裕を感じさせる演奏です。こういう世界は一度ハマるともう抜け出せません。

    トラディショナルと表記されていますがジョン・クイーンとチャーリー・カートウェルが書いて、1902年にアーサー・コリンズ(バリトン歌手)とジョー・ナタス(ミンストレル・ショーのパフォーマー)によってレコーディング、リリースされました。
    カントリー・ブルーズマンのフランク・ストークスやピンク・アンダーソンなどもカバーしています。
    こういう曲を見つけてくるところがさすがライ・クーダーです。
    内容は賭博師が負けて最後にかけたところで大勝ち、その時警察が入ってきてみんな取り締まられたが俺は金を持って逃げられた。
    俺は運を持ってるぜと歌いますが、そういうギリギリの生活をしているうちに最後はショットガンで撃たれてしまいます。

  3. Always Lift Him / Kanaka Wai Wai いつも優しく
    (ブラインド・アルフレッド・リード / トラディショナル)

    「オールウエイズ・リフト・ヒム」の作者、ヴァージニア生まれのブラインド・アルフレッド・リードはジミー・ロジャースやカーター・ファミリーなどと同世代で1920年代に活躍しました。
    このカントリーの基礎を作った人たちと共にカントリー・ミュージックのビッグバンと言われる1927年にテネシー州ブリストルで行われた「ブリストル・セッション」に参加しています。
    これはビクターのプロデューサー、ラルフ・ピアによってレコーデシングされ、ここからカントリー・ミュージックが始まったものとされているセッションです。
    最後に出てくるメロディ「カナカ・ワイ・ワイ」はそのイメージどおりハワイのスタンダードです。
    全く別物ジャンルでもライ・クーダーは違和感なく繋げられます。

    とつとつと歌い上げる雰囲気たっぷりのナンバーです。
    勝手なことを言わせてもらいますと、こういう母や女性がいるから、世の男どもは必死になって頑張れるのですね。
    ギターソロの始まりでチキン・スキン・ミュージックを感じます。
    聴くタイミングを間違えると涙腺が決壊しそうになります。

    [Verse 4]
    If he has no friends and everyone’s against him
    If he’s failed at everything that he has tried
    Try to lift his load, to help to bear his burden
    Let him know that you are walking by his side
    And if he feels that all is lost, and he is falling
    Try to place that poor man’s feet on solid ground
    Just remember he’s some mother’s precious darling
    Always lift him up and never knock him down
    Always lift him up and never knock him down

    彼に友達がいなくて、みんなが彼に敵対している
    なら 彼が試みたことすべてに失敗したなら
    彼の重荷を軽くして、彼の負担を分かち合うようにして
    あなたが彼のそばを歩いていることを彼に知らせて
    そして、彼がすべてを失い、落ち込んでいると感じているなら
    その哀れな男の足をしっかりとした地面に立たせてあげて
    ただ、彼が誰かの大切な母親の愛しい息子であることを覚えていて
    いつも彼を励まして、決して彼を打ちのめさないで
    いつも彼を励まして、決して彼を打ちのめさないで

  4. He’ll Have to Go 浮気はやめなよ
    (ジョー・アリソン、オードリー・アリソン)

    オリジナルはジム・リーヴスが1959年10月15日にレコーディングして1960年にはビルボードホット100で2位、ホット・カントリー・シングルチャートでは1位となるヒットとなりました。
    愛する女性と電話をしている男性が彼女と一緒にいる別の男性に気づく、という内容です。

    中南米風のアコーディオンも入って無国籍な雰囲気が高まります。
    ワールドワイドな、豊穣な音楽の世界です。
    ソロパートもアコーディオンに任せてライのギターはカウンターを入れる程度ですがこの雰囲気も素晴らしいものです。

  5. Smack Dab in the Middle スマック・ダブ・イン・ザ・ミドル
    (チャールズ・E・カルホーン)

    作者のチャールズ・E・カルホーンとはジェシー・ストーンというプロデューサー、ソングライター、アレンジャー、ピアニストの別名です。
    他にもビッグ・ジョー・ターナーで有名な「シェイク・ラトル・アンド・ロール」やドリフターズでヒットしてエルヴィス・プレスリー、エディ・コクラン、ライ・クーダーなども取り上げている「マネー・ハニー」の作者でもあります。
    かの有名なアトランティック・レーベルのスタッフとしても働いていました。
    当時、ストーンはアトランティックの給料名簿に載っている唯一の黒人だったそうです。
    1949年にアトランティックの創設者、アーメット・アーティガンおよびハーブ・エイブラムソンとアメリカ南部に行った時に二人に助言しました。アトランティックのレコードが南部で売れ行きが悪いのはある種のダンス的な要素が欠けているからだとわかったのです。
    ストーンは後にこう語っています。
    「南部の酒場で寄せ集めのバンドが演奏している曲を聴いて、我々が録音している曲に欠けているのはリズムだけだと結論づけた。必要なのはベースラインだけだった。そこでベースパターンを考案したところ、それがロックンロールの代名詞となった。ドゥー、ダドゥー、ダム、ドゥー、ダドゥー、ダム、あのパターンだ。それを始めたのは私だ。」
    アーメット・アーティガンも後に
    「ジェシー・ストーンは誰よりもロックンロールの基本サウンドを発展させた」
    と語っています。

    ゆったり目のシンコペイトしたリズムで力強い(ライ・クーダーにしては)演奏となっています。

  6. Stand by Me スタンド・バイ・ミー
    (ベン・E・キング、ジェリー・リーバー、マイク・ストローラー)

    泣く子も黙る、カバーしたミュージシャンは数知れずと言われるくらい有名な、そしてまた青春の代名詞と言われる映画のタイトルにもなっているソウル・スタンダードです。
    ここではアコーディオンのヴィブラートに始まり、テックス・メックス的なアレンジで他にはない雰囲気を作っています。。
    ここでも同じくややスローに優しく語るように歌います。

  7. Yellow Roses 黄色いバラ
    (ケン・デヴァイン、サム・ニコルス)

    ハワイアンな雰囲気でギャビー・パヒヌイさんが大活躍です。
    1976年にロックのジャンルで一切流行などに関係なくこういう音楽を演っていたことは素直にすごいことだと思います。

  8. Chlo-e (instrumental) クロエ
    (ガス・カーン、ニール・モレット)

    1927年にニール・モレが作曲、ガス・カーンが作詞したジャズのスタンダードナンバーです。
    ライ・クーダーはこの2年後に「JAZZ」というアルバムをリリースしますがその流れがここで始まっています。

  9. Goodnight, Irene グッドナイト アイリーン
    (レッドベリー、ジョン・ロマックス)

    スローなワルツのリズムで、このアルバムのラストに最も相応しいナンバーです。
    リラックスした演奏、リラックスしたヴォーカルはこのアルバムを、ライ・クーダーの世界を象徴しているように感じます。

    作者の一人、ジョン・ロマックスはアメリカの教師であり、先駆的な音楽学者であり、アメリカの民俗音楽の保存に大きく貢献した民俗学者でした。
    その意思は著名な民俗音楽の収集家となる息子のアラン・ロマックス、ジョン・ロマックス・ジュニア、ベス・ロマックス・ホーズに引き継がれていきます。
    この一家がいなければブルーズの起源や流れなどの解明がだいぶ遅れた、もしくは闇に葬られたままの状態だったのでは、と思われるほどアメリカ音楽史における重要な一家です。
    この人たちがアメリカのみならず、イギリス、アイルランド、イタリア、スペイン、カリブ海地域などを歩き回って民俗音楽のレコーディングや情報の収集を行いました。
    特に初期のアメリカン・トラディショナル、黒人音楽などへの学術的な業績は大変なものがあります。
    ニューオリンズで発生したジャズやブルーズ、ブルーズの地域性、アイルランド系移民によるアパラチア山脈地方のフォークミュージックと、カントリーへの流れ、などなどそういうことが体系的にわかるようになりました。
    そういった研究のおかげで私たちは快適な環境で椅子に座りながらブルーズやゴスペル、フォークソングの情報が得られるようになっていることを考えると、なんとも申し訳ない気持ちにさえなる私なのであります。

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