「1975年『30過ぎた奴を信じるな』『歳をとる前に死んでしまいたい』と言ってきたロック・ミュージシャンもいよいよ30歳になってしまい、いろいろ拗(こじ)らせて作った愛すべき名盤です」The Who by Numbers : The Who / ザ・フー・バイ・ナンバーズ : ザ・フー

 英国ロックバンド、ザ・フーの1975年リリース、七枚目のスタジオアルバムです。

そのアルバムが今年2026年10月30日、50周年記念として「デラックス・エディション」「スーパー・デラックス・エディション」としてリリースされました。

残念なことに日本ではザ・フーは絶頂期の来日公演も無く、聴きやすい楽曲もさほど多くないので、いまひとつマイナーな存在です。

それは昔からそうでしたが、私なんぞはそういう情報の少なさに加えて、ギターやドラムをぶっ壊す派手なステージアクションの話を聴くたびに妄想を膨らませるヘンな少年でした。

「そうか、あの頃からもう50年も経ってしまったか」と感慨もひとしおです。
「でも、どうせそんなに売れやしないだろうけど、どうしよう」と勝手に心配になってしまうのでした。

今までLP、CD、ハイレゾとこのアルバムを聴いてきましたが、さすがにここ数年のリマスターというのは今までのものとは次元が違っています。

太くて自然で音の重心が低くなりました。
各楽器屋ヴォーカルの分離が優れており、音の遠近感、ダイナミクスが違っています。

今回の2026年リマスターについても、配信ダウンロードではCDと同じ規格(44.1kHz16bit)でしか配信されていないのですが、以前から持っているハイレゾ音源と比較しても最新リマスターの方が素直に素晴らしいと感じます。

「スリップ・キッド」でのエレキギターの歪みが自然になり、全編にわたってアコースティック・ギターの音色もリアルになりました。

ベースもより低音が効いて「スクイーズ・ボックス」の最初の方の地を這うような重低音がはっきり出ています。

平たく言って「もうこれくらいの音にになるならロックのリマスターについては44.1kHz16bitで上等じゃないすか」とさえ言いたくなるほどです。

1964年デビューのザ・フーはこの「バイ・ナンバーズ」の頃になるとすでに10年選手、ロックの名盤と言われる「トミー」も「フーズ・ネクスト」も「四重人格」もリリース済みです。

ライブも好調で、やればかならずアリーナ・クラスでも満員にできる超ビッグネームとなっていました。(日本以外では)

しかし時は1975年、ロックもいよいよ熟成された時期です。

その完熟具合は初期の若者の若者の衝動からかけ離れてきていました。
もうすぐその揺り戻しでパンクが登場するという頃あいです。

そういう状況のど真ん中にいたザ・フーのピート・タウンゼントはある意味マジメであるが故に相当拗(こじ)らせていました。

超弩級のスランプに陥っていたそうです。

自分で
「Don’t Trust Over 30=30過ぎたやつを信用するな」
「歳をとる前に死んでしまいたい」
と言っていたのに自分が30歳になってしまったのです。

そういうことがこうじて彼は
「ロックンロールを演奏するには年を取りすぎているのではないか」、
「バンドの存在意義が失われつつあるのではないか」
という考えに悩まされていたそうです。

今と違って、まだ世の中は年老いたロック・ミュージシャンは存在していない時代だったのです。

バンドは1974年に「Quadrophenia(四重人格)ツアー」の後、長期の休暇に入り1年以上ライブを行っていませんでした。

その間、他のメンバーはというとジョン・エントウィッスルrはソロ活動をしたり、ロジャー・ダルとりーは映画「トミー」の制作や他の映画出演に没頭していました。

そういう中でこのアルバムのレコーディングは4月に開始され、6月までかかりました。
そしてやっとのことで10月にリリースされることになります。

プロデューサーのグリン・ジョーンズは、メンバーの集中力の無さなどに悩まされながら、なんとか作り上げた状態だったようです。

ピート・タウンゼントは当時のことを
フーのレコーディングスケジュールがいつものように長引き、個々のメンバーとそのニーズをないがしろにしていたため、私にも責任の一端があると感じていたこと。

グリン・ジョーンズはこのアルバムの制作に、今まで見た中で一番一生懸命取り組んでいたこと。

曲が弱かったり音楽が下手だったりしたからではなく、グループがあまりにも役に立たなかったから、そうせざるを得なかった。

などと語っています。

そんなこんなでバンドはひどい状態だったらしいのですが、出来上がったものはそんなに悪くありませんでした。
(個人の感想です) 

確かにこのアルバムはザ・フーのカタログの中でも重要作とも見なされてはいません。

ベスト盤に取り上げられる曲も多くはありませんし、ライブの定番となっている有名曲もありません。

今となってはザ・フーのアルバムのデラックス・エディション・シリーズの最後になった扱いを見ても、重要作とはみなされていないようです。

でも私はそんなに悪い、評価の低いアルバムとは思えません。
聴きどころはたくさんあります。

内省的な内容が多い故、ザ・フーには珍しくしっとりした、情感を感じられるアルバムになっているのです。

ゲストはピアノのニッキー・ホプキンスだけということもあり、ストレートなサウンドです。

そしてこのアコースティックでシンセサイザーやホーンなどを多用せず、バンドだけで作ったようなシンプルなサウンドが昔から私は好きでした。

ザ・フーの作品の中でも、自然と耳に入ってくる聴きやすいアルバムと感じます。

アルバムジャケットはタイトルに掛けたジョン・エントウィッスル作のイラストです。
数字がふってあり、一筆書きで繋げていくと完成します。

私が高校生の時はコピー機がまだ一般的ではなかった時代で、LPに定規を当てて線を書いていった思い出があります。

ジョン曰く
「『四重人格』のアルバムのアートはピートが担当で約16,000ポンドかかって家が買えそうな金額だったけど、俺が担当した今回のカバーは32ポンドだよ」

そしてこのアルバム、リリース当時はそんなに売り上げが悪かったわけではありません。

全英アルバムチャートで7位、全米ビルボード・トップアルバム・チャートでも8位となって、ヴィレッジ・ヴォイスの批評家投票でも年間アルバムトップ10に入る成績を残しています。

アルバム「ザ`フー・バイ・ナンバーズ」のご紹介です。

Amazon.co.jp: ザ・フー・バイ・ナンバーズ (デラックス・エディション)(通常盤)(2枚組)(SHM-CD): ミュージック
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曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Slip Kid スリップ・キッド

「1、2、3、4、5、6、はいそのまま」で始まります。
奥行きのある歌詞ですがメロディはポップでキャッチー、それに加えてうねりを感じるサウンドが大好きでした。
途中、ギターのヴォリューム奏法(昔はヴァイオリン奏法などと言われていました)が登場します。
昔、バンド名を「スリップ・キッズ」にしようかと思ってたことを思い出します。

2,   However Much I Booze ハウエバー・マッチ・アイ・ブーズ

アコースティック・ギターのカッティングで軽く明るい感じのサウンドですが、もうアル中の歌です。絶望的な内容であります。

3,   Squeeze Box スクイーズ・ボックス

カントリータッチのナンバーでタイトルはアコーディオンのことです。よってエロい内容です。
シングルヒットしました。

4,   Dreaming from the Waist ドリーミング・フロム・ザ・ウエィスト

最初のタイトルは「Control Myseif」だったそうです。「自分をコントロールできる日を夢見ている」という内容です。
後期のザ・フーらしいサウンドです。コアなファンとしては好きなのですが、もちろんこういうのは日本では受けません。

5,   Imagine a Man イマジン・ア・マン

ジョン・レノンの「イマジン」は平和を希求する壮大なテーマでしたが、この曲は「あなたはもうすぐ終わりが見えるだろう」と絶望を歌っています。

6,   Success Story サクセス・ストーリー

ジョン・エントウィッスルの作です。
内容はピートを中心としたバンドのことを歌っています。
「ギターを壊せばきっと成功する」
「公演は税務署のために6回、バンドのために1回」
「スタジオに戻ってナンバー1を取るためにレコーディング、テイク276回」
「成功したけど今は忙しく搾取されるばかり、21歳の頃は楽しかった」
という内容です。

7,   They Are All in Love ゼイ・アー・オール・イン・ラヴ

ロジャー・ダルトリーも歌が上手くなったなあと思ったものでした。
タイトルやドラマチックな曲調に反してなんか皮肉めいた内容です。

8,   Blue Red and Grey ブルー・レッド・アンド・グレイ

ピート・タウンゼントによるウクレレの弾き語りです。
以下、ピートによる解説です。

「グリン・ジョンズはそれをアルバムに入れたがった。
彼がそれを選んだ時、私は身がすくんだ。
彼はカセットテープでそれを聴いて、「これは何だ?」と言った。
私は「何でもない」と答えた。彼は「いや、再生してみろ」と言った。
私は「本当に何でもないんです。ただウクレレを弾いているだけです」と言った。
しかし彼はそれをどうしても入れたいと言い張った。
私は『何だって?あのクソみたいなやつを?自殺願望を歌った曲を、レコードに入れるつもりなのか?』と言った」

9,   How Many Friends ハウ・メニ・フレンズ

これもロジャー・ダルトリーがじっくり歌い上げます。
「本当の友達は何人いるんだろう」という内容です。

10,  In a Hand or a Face イン・ア・ハンド・オワ・ア・フェイス

これも「ずっと同じことを繰り返すだけ」とうたう内省的な内容です。
贅沢を言えばラスト・ナンバーにしてはちょっと弱い。もっとかっちりしたハードなナンバーで締めてほしかった・・・

で、CDの時代になるとボーナストラックで1976年6月12日のウエールズ、ベッチ・フィールドでのライブ3曲「スクイーズ・ボックス」「ビハインド・ブルー・アイズ」「ドリーミング・フロム・ザ・ウエイスト」が追加されました。

このライブがまた、ジョン・エントウィッスルのベースが大活躍で聴きごたえがあります。

あ・・失敗。
それを思うと今回はやっぱり、ベッチ・フィールド・ライヴの完全版が入った「スーパー・デラックス・エディション」も必要かも知れません。

演奏

ザ・フー

  • ロジャー・ダルトリー
    リードボーカル
  • ピート・タウンゼント
    ギター、キーボード、バンジョー、アコーディオン、ウクレレ、バッキングボーカル、「However Much I Booze」と「Blue, Red And Grey」のリードボーカル
  • ジョン・エントウィッスル
    ベース、フレンチホルン、トランペット、バッキングボーカル、「サクセス・ストーリー」のセカンドリードボーカル
  • キース・ムーン
    ドラム

ゲスト・ミュージシャン

  • ニッキー・ホプキンス 
    ピアノ

プロダクション

  • グリン・ジョンズ 
    プロデューサー、エンジニア、ミキシング
  • ジョン・アストリー 
    リミックス(1996年再発盤)
  • クリス・チャールズワース 
    エグゼクティブ・プロデューサー(1996年再発盤)
  • ビル・カービシュリー 
    エグゼクティブプロデューサー
  • リチャード・エヴァンス 
    1996年再発盤のデザイン
  • ダグ・サックス 
    マスタリング
  • ボブ・ラドウィッグ 
    1996年再発盤のリマスタリング
  • ロバート・ローゼンバーグ 
    エグゼクティブプロデューサー
  • ジョン・エントウィッスル 
    アルバムカバーアート
  • ジョン・スウェンソン 
    ライナーノーツ(1996年再発盤)
  • クリス・ウォルター 
    写真 1996年再版

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