“ロックとジャズの融合” という 言葉はいつの時代でも聞きます、言われます。
そういう場合は大体において、一つのジャンルでは語れないほどの多様性がある音楽ということです。広い視野を持ったスケールの大きさを感じさせます。
しかし1970年代後半、その真逆をいくアルバムが登場しました。
それは徹底的に趣味に走って、小さいことにこだわりを続け、採算なんぞど返ししてでも自分が気に入った音楽にしたいというマニアックな集団(二人ですが)で作り上げられました。
そして彼らのアプローチこそが “真のロックとジャズの融合“ をやってのけました。
それがスティーリー・ダンというグループです。
象徴的なアルバムが1977年9月にリリースされたこの「彩(エイジャ)」です。
ロック側からはこのひねくれた感じとリズムはロックであると思われました。
ジャズ側からは演奏の素晴らしさとアレンジがジャズ的と認められました。
音楽性にこだわるミュージシャンほどこのアルバムの価値を認め絶賛しました。
しかも音質もよく、ベース、リズムのキレはすごいものがあり、アナログ時代ではベスト録音の部類です。オーディオの世界でもリファレンス音源として長らく定着しました。
今の時代のオーディオマニアも唸るほどのこだわりが見られます。
これによりスティーリー・ダンはティーンエイジャーターゲットのロックからもう一回り上の世代に向けての大人のロックを展開します。
あっ、それってAORですね。
リリース時にはビルボードで3位になるなど各国でヒットしましたが、その後も息の長いファンの途切れないアルバムとなりました。
演奏者からの研究対象として貴重な教材という役割もあります。
マイナス面として、曲調やヴォーカルの声質などが個性的なため「あ、これ無理」と一部には敬遠される向きもあります。しょうがありません、個性とはそういうものです。本人たちもそう思ってそうです。
この後は基本的にこの路線で進めていくことになります。
スティーリー・ダンは1971年にウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンによってニューヨークで結成されました。1972年に「キャント・バイ・ア・スリル」でデビューしシングルカットされた「ドゥ・イット・アゲイン」(6位)と「リーリン・イン・ザ・イヤーズ」(11位)はヒットしその後も順調に音楽活動を続けます。
最近までは音楽界の重鎮として君臨していましたが、メンバーの一人、ウォルター・ベッカーが2017年9月3日、食道癌で亡くなりました。ドナルド・フェイゲンは2021年にスティーリー・ダンとして「Northeast Corridor」というライヴアルバムをリリースするなどまだ精力的に活動しています。
スティーリー・ダンといえば初期の趣味の悪いジャケットが有名です。デビューアルバムの表(おもて)面はありがちなメンバーのポートレイトなどではなく訳のわからない卑猥なイラストです。よくぞファーストアルバムでここまで突っ込めたかと感心します。
セカンドアルバムはジャケットも何か変だし、タイトルからして「カウントダウン・エクスタシー」です。
このひねくれ具合には感心します。しかしデビューからずっと音楽的には極上でした。
(気になった人はぜひ、買って聴いてください)
でもジャケットに関してはこの「彩(エイジャ)」で軌道修正します。
モデルは超日本人的美形モデルの山口小夜子さんです。
カメラマンは藤井秀樹さんというオシャレでアート感満載です。
タイトルの由来は韓国人女性の名前だそうです。
前作の「幻想の摩天楼」で怪しげなものにはもう飽きたのでしょうか。次作「Gaucho」もいい線行ってます。
やっと改心したかと思ったら、1995年リリースの「アライヴ・イン・アメリカ」は大概ですけどね。
これです。(泣)
アルバム「彩(Aja)」演奏と曲目のご紹介です。
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1. 「ブラック・カウ」Black Cow
ドナルド・フェイゲン リードボーカル、シンセサイザー
ポール・ハンフリー ドラム
チャック・レイニー ベースギター
ヴィクター・フェルドマン フェンダーローズピアノ
ジョー・サンプル クラヴィネット
ラリー・カールトン ギター
トム・スコット テナーサックス
バッキングヴォーカル
クライディー・キング、ヴィネッタ・フィールズ、シャーリー・マシューズ、レベッカ・ルイス
タイトルは炭酸飲料のことだそうです。
2.「エイジャ」Aja
ドナルド・フェイゲン リードボーカル、シンセサイザー、ホイッスル
スティーヴ・ガット ドラムス
チャック・レイニー – ベースギター
ラリー・カールトン、ウォルター・ベッカー、デニー・ディアス ギター
ジョー・サンプル – フェンダー・ローズ
マイケル・オマーティアン ピアノ
ヴィクター・フェルドマン – パーカッション
ウェイン・ショーター テナーサックス
ティモシー・B・シュミット バッキング・ボーカル
アジア大陸のことだそうです。スティーヴ・ガットのドラムが数々のミュージシャンから賞賛されています。
3.「ディーコン・ブルース」Deacon Blues
ドナルド・フェイゲン – リードボーカル、シンセサイザー
バーナード・パーディー ドラムス
ウォルター・ベッカー – ベースギター
ラリー・カールトン、リー・リトナー ギター
ビクター・フェルドマン – フェンダー・ローズ
ピート・クリストリープ テナーサックス
バッキングヴォーカル
クライディー・キング、シャーリー・マシューズ、ヴェネッタ・フィールズ blues
メロディアスでファンの多い曲です。最初に聴いた時にはこの曲が一番印象に残りました。
4.「ペグ」Peg
ドナルド・フェイゲン リードボーカル
リック・マロッタ ドラムス
チャック・レイニー – ベースギター
ポール・グリフィン フェンダー・ローズ、バッキング・ボーカル
ドン・グロリニック クラビネット
スティーヴ・カーン ギター
ジェイ・グレイドン ギター・ソロ
ヴィクター・フェルドマン、ゲイリー・コールマン パーカッション
トム・スコット リリコン
マイケル・マクドナルド バックボーカル
タイトルは女優志望の女の子の名前です。1950年代の映画「イヴの総て」からインスピレーションされたらしいです。
5.「ホーム・アット・ラスト」Home at Last
ドナルド・フェイゲン リードボーカル、シンセサイザー
バーナード・パーディ ドラムス
チャック・レイニー ベースギター
ラリー・カールトン ギター
ウォルター・ベッカー ギターソロ
ヴィクター・フェルドマン ピアノ、ヴィブラフォン
ティモシー・B・シュミット バッキング・ボーカル
ドラムスのバーナード・パーディさんのオリジナルの必殺技「パーディー・シャッフル」というハーフタイム・シャッフルが聞きものです。TOTOのジェフ・ポーカロなどいろんなドラマーが絶賛しています。
6.「アイ・ガット・ザ・ニュース」I Got the News
ドナルド・フェイゲン – リードボーカル、シンセサイザー
エド・グリーン ドラムス
チャック・レイニー – ベースギター
ヴィクター・フェルドマン – ピアノ、ヴィブラフォン、パーカッション
ディーン・パークス ギター
ウォルター・ベッカー、ラリー・カールトン – ギターソロ
バッキング・ボーカル
マイケル・マクドナルド、クライディー・キング、ヴェネッタ・フィールズ、シャーリー・マシューズ、レベッカ・ルイス
雰囲気をジャズに寄せています。何気にこのエド・グリーンさんのドラムもすごいです。
7.「ジョシー」Josie
ドナルド・フェイゲン – リードボーカル、シンセサイザー
ジム・ケルトナー ドラム、パーカッション
チャック・レイニー ベースギター
ビクター・フェルドマン フェンダー・ローズ
ラリー・カールトン、ディーン・パークス ギター
ウォルター・ベッカー ギターソロ
ティモシー・B・シュミット バッキング・ボーカル
ロックな曲です。ドラムのジム・ケルトナーさんはどんな人とも合わせられる、満足させられるすごい人だと思います。
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