まず、彼の音楽に対するスタンスを知っておくことが重要です。
ということでフランク・ザッパのカタログの中で一番有名で、多分一番売れたであろう「シーク・ヤブーティ」を参考にフランク・ザッパという危険物の取扱方法をお話しします。
「シーク・ヤブーティ」は1979年にリリースされ、アメリカでも異例の21位まで上昇するということになりました。大健闘の結果、アルバムは全世界で200万枚も売れました。
といってもマイケル・ジャクソンの「スリラー」7,000万枚、AC/DC「バック・イン・ブラック」5,000万枚とかの数字を聞くとトホホなものです。
タイトルの意味は流行していたディスコミュージックのKC・アンド・サンシャイン・バンドの「Shake Your Booty」に引っ掛けたものだそうです。
確認しましたが曲調は一切関連が見つかりません。「ラジオで喋ったらみんな間違えるぜ。ハハハ」くらいにしか思っていません。きっと。
アルバムジャケットはザッパの顔の大写しです。イタリア系アメリカ人なのですがアラブ風に白い布を頭に纏っています。
これでは見た目からしてロック少年にアピールするようなカッコ良さはありません。
というよりなんかこれ、“普通にワケのわからんヤベェ奴です。”
そんなにイケメンでもないんだからもうちょっと購買意欲の上がるデザインにした方がよろしいのでは、と忠告のひとつもしたくなります。
というところでちょっと本質に迫ってみます。
元々フランク・ザッパは1960年代から音楽活動を始めています。最初は高校生の時、バンドのドラマーとしてでした。
その頃聞いていたのはジョニー・ギター・ワトソンやギター・スリムなどのブルーズやR&B、ザ・チャンネルズやザ・ベルベッツなどのドゥーワップ、イーゴリやストラヴィンスキーなどのクラシック音楽、エルガルド・ヴァレーぜなどの前衛音楽です。本人の弁によると正式な音楽教育を受けていないので音楽の違いなんかはわからなかったそうです。
普通の高校生ならばビルボードホット100に出てくる音楽を聴いていなければいけない年頃です。こんなんじゃ友達がいなかったのかと心配になりますが、そういうわけではなく普通にリーダーシップもあり、ちょっと変わった尖った存在だったようです。
この頃からすでに常人にはわからない感性を持っていました。まず、そういう認識が必要です。
ザッパの作る音楽はかなりいろんなジャンルに渡りますが、大まかにはエレクトリック楽器を使ったバンド形態なのでカタログ上はロックに分類されています。
フランク・ザッパからしたらメインストリーム音楽のロックはカウンターパートだったようです。
目的は同じでも立ち位置と価値観は全く違います。
ここでいう目的とは表現の自由とか音楽の希求という意味です。
そうしてシリアスな音楽が出てくればお下劣な音楽で笑い飛ばし、男女の恋愛の素晴らしさが語られれば性的マイノリティのことを歌います。
メインストリーム・ロックを否定しているわけではありません。
「サージャント・ペパーズ」をパロったり、「天国への階段」をカバーしたり、ピンク・フロイドと共演したりもしています。カルロス・サンタナのギターにはかなりの影響が見られますし、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」にはフランク・ザッパとマザーズの泊まっているホテルの火事のことが歌われたりしてます。
ちゃんとメインストリームを利用しています。
メインストリーム・ロックは認めて受け入れつつも、常に彼にとってはカウンターパートなんです。
ただ、そうは言っても執拗なまでにギャグを真面目に演り続けるとか、あえて売れる音楽を作らないようなスタンスはこれでは説明できません。
周りから分析、定義されることも無駄だと言っています。
言えるのはここまでか。・・・ここまでなんです。
ダメです、これでは本質なんて何もわかってないのと一緒です。
さらにいろんな見方もありますでしょうが、スケールが違います。本質に迫るなんてのはやめましょう。
<気を取り直して>
次に重要なことは聴く音質です。
実は素晴らしい音で聴かないとザッパの良さはわからないのです。
昔、大してろくなオーディオシステムもない頃にザッパを聞いた時は「目まぐるしい、やかましい、ごちゃごちゃしてわけがわからん」というのが素直な印象でした。
「世の中にはこういうのが好きな人も一定数いるのだろうけど、自分はいいや」、と思ってしまいました。
だいぶ年月が経ってオーディオにも真面目に取り組むようななってくると、また違ってきます。
素晴らしい音とはリズムはよりどっしりとして、音は分離よく歪み感もなくて、聞き疲れしない音です。
そういう環境で聞くとフランク・ザッパのサウンドはまた違う鳴りをしていました。
そこで思ったことは
・曲がとっても練られている
・アレンジが多様で素晴らしい瞬間がいくつもある
・やはり他にはない才能を感じる
ということです。
なのでヘッドフォーンでもスピーカーでも「いい音だなあ」と思えるものを手に入れて聞いていただきたいと思います。
CDプレイヤーやPC、スマホ、タブレットのヘッドフォーン端子から直接聞くとか、リアルな音質を追求していないようなスピーカーで聞くのでは本質というか本当のフランク・ザッパには辿り着けません。
才能を感じられれば世界が違って見えてくるものです。(個人の意見です)
以上、フランク・ザッパの取り扱いは
*ジャンルとか音楽性とか気にせずにフラットな状態で聴きましょう。
*自分の思う最高の音質で聴いてください。
以上に留意していよいよフランク・ザッパの世界に入ります。
アルバム「シーク・ヤブーティ」のご紹介です。
演奏
フランク・ザッパ ギター、ヴォーカル、バッキングヴォーカル、作曲、編曲、プロデュース、リミックス
デイヴィー・モイア ヴォーカル Tr. 6.8 バッキングヴォーカル、エンジニア
ナポレオン・マーフィー・ブロック ヴォーカル Tr.7 バッキングヴォーカル
アンドレ・ルイス バッキングヴォーカル
ランディ・ソーントン ヴォーカル Tr.17 バッキングヴォーカル
エイドリアン・ブリュー ギター Tr.5.14 バッキングヴォーカル、ボブ・ディランのまね
トミー・マーズ キーボード、ヴォーカル Tr.17 バッキングヴォーカル
ピーター・ウルフ キーボード
パトリック・オハーン キーボード、ヴォーカル Tr.3,6,8、バッキングヴォーカル
テリー・ポジオ ドラムス、ヴォーカル Tr.3,4,6,8,13,17 バッキングヴォーカル
エド・マン パーカッション、バッキングヴォーカル
デヴィッド・オッカー クラリネット Tr.17
ボブ・ストーン デジタル・リマスタリング
ジョー・チカレリ リミックス、オーバーダブエンジニア
ピーター・ヘンダーソン、ジョン・ウォールズ、ケリー・マクナブ エンジニア
ボブ・ルドウィグ マスタリング・エンジニア
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, I Have Been in You
壮大な感じのオープニングです。この低音ボイスが気持ち悪いともよく聞きます。
ドラマチックな展開で次の曲に途切れることもなく繋がっていきます。1分11秒あたりの「イェーッ」にはロックを感じます。
2, Flakes
ラップ調の歌に乗って途中からエイドリアン・ブリューがボブ・ディランを真似て歌います。ちゃんとディランのかっこよさを抑えた雰囲気なのでおちょくっているようには感じません。
いろんな音楽の要素を取り入れた曲です。4分30秒あたりの1,2,3,4のカウントにロックを感じます。
3, Broken Hearts Are for Assholes
アップテンポのノリのいい曲です。こちらの1分15秒あたりに出てくる1,2,3,4は格好悪いです。
4, I’m So Cute
ここでも切れ目なく曲が続きます。格好いいサウンドですが3曲目にも感じたのですが、ヴォーカルが弱い、あえてそこを狙っているのかと思うほどです。
迫力あるヴォーカルを入れて、おちゃらけたコーラスがなければいい曲です。
ここらあたりは音の悪い状態できくと頭痛がしてきてザッパは聞きたくなくなります。
ぜひいい音質でお楽しみください。
5, Jones crusher
ノリのいい曲が続きます。普通にいい曲です。
6, What Ever Happened to All The Fun in the World
間違えて録音スイッチを押したような瞬間です。
7, Rat Tomago
ライブっぽいギターソロが(ライブですが)堪能できる5分間のインスト曲です。
8, Wait a Minute
Tr.6と同じくつなぎの時間です。
9, Bobby Brown
名曲です。ただし歌詞を見ると売れようと思ってないようです。これくらいの曲ならいつでも作れるぜという感じを持たせるところがさすがザッパです。
もうちょっと長生きしてくれたらジョークでこういうメインストリームでも通用するメロディ満載のアルバムを一枚くらいは作ってくれたかもしれません。
オフィシャルではありませんが日本語訳の動画がありました。
10, Rubber Shirts
スタジオでのベースとドラムのサウンドチェックみたいな感じで始まり、そのまま終わってしまいます。ベースソロだったのか。
11, The Sheik Yerbouti Tango
アルバムタイトルを冠したトラックです。異国情緒も感じます。そのまま終わります。前の曲と合わせて、で?とツッコミを入れたくなる曲です。
12, Baby Snakes
普通に演ればいい曲なんですが男性コーラスに高い音程を歌わせたり、女性コーラスに低い音程を歌わせたりメチャクチャです。
13, Tryin’ to Grow a Chin
きっとザッパにこういうふうに歌えと言われているのでしょう。
バンドのドライブ感はさすがです。
14, City of Tiny Lites
途中で曲調が変わります。
15, Dancin’ Fool
この辺になるともう曲間の意味が亡くなっているような。
16, Jewish Princes
遊び心一杯です。もっとシンプルにすればもっといい曲になると思います。
17, Wild Love
アニメ調だったりオペラ風だったりドゥーワップ風だったり遊びすぎです。こういうのはダメな人はダメでしょう。「そういうとこやぞ」と思わず突っ込んでしまいます。
18, Yo’ Mama
延々と続くギターソロの曲で最後はテーマに戻って終わります。
なんだかんだと言っても他では味わえない楽しいアルバムです。
インストゥルメンタルものが聞いてみたい方にはこちらをお勧めします。
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