訃報、ロックの歴史に多大なる影響を与えてきたミュージシャン、ロビー・ロバートソンが亡くなりました。

 2023年8月9日、ロビー・ロバートソンさんの訃報が届きました。ここ最近、ジェフ・ベックさんとかオールマン・ブラザーズのブッチ・トラックスさんとかロックの創世記に活躍した人の訃報が多くなっています。
確かにそういう人たちも人間の平均寿命を迎えようとする年齢なので、仕方ないかもしれません。
これを機会に改めてロビー・ロバートソンの業績を感じてみたいと思います。

ロビー・ロバートソンは1943年7月5日にカナダで生まれました。
外見からもなんとなくアジア人的に感じるところがありますが、それは母親がネイティブ・アメリカンのイロコイ族、モホーク族の血統であったからです。
ロビーは最後までこの出自は大切にしていました。
はっきりしたことは言えませんが、彼に感じる意思の強さとか頑固さの裏には、もしかしたらネイティヴ特有の差別体験とかあるのかもしれません。(個人の勝手な感想です)

10代の頃からザ・ホークスとしてロイ・ホーキンスのバックバンドで活動を始めました。
1965年に大ブーイングを浴びることになるボブ・ディランのエレクトリック化したツアーにホークスごとバックバンドで参加します。

ここでロック史に残るイギリスのコンサートツアーでの「ユダ(裏切り者)」という罵声の当事者となります。
長らく伝説として語られていましたがめでたく2005年にマーチン・スコセッシ監督の映画「ノー・ディレクション・ホーム」で映像で確認することができるようになりました。

伝説のロイヤル・アルバートホールではなく本当はマンチェスターのフリートレードホールであったことやディランと観客とのチグハグなやり取りの後、「Play it Fuckin’ Loud : でっかい音で行くぜ!」と言って「ライク・ア・ローリング・ストーン」を始めるところは何度見ても鳥肌ものです。(ロビーが言ったという説もあります)
いつまでも「風に吹かれて」や「時代は変わる」のイメージを求めるファンへの決別宣言です。

その後、ザ・バンドとして1968年に「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」でデビューします。
1曲がトラディショナル、2曲がボブ・ディラン、残りは作詞、作曲ともにロビーのオリジナル作品で構成されています。
曲もコンパクトでライブでもレコードと同じようなクオリティで演奏します。



このアルバムは当時ブームだったサイケデリック・ロックや若者の反抗、伝統の否定と拒否など新しいものが喜ばれる時代に対して真逆を行くものでした。

世界中で評判となりましたが、特にイギリスではビートルズ、ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンらが絶賛します。
クラプトンに至っては人気沸騰中だったサイケデリック・ハードロックバンドと言われたクリームでの活動に完全にやる気を無くし、レイドバックに目覚めます。音楽観までまるっきり変わってしまいました。

このようにハードで派手なサウンド、大音量で延々続くギターソロやドラムソロ、というような当時のロックに突如異物が現れたのです。そしてもしかしたらこういうものこそ本物と思わせました。
ブルーズやフォーク、アメリカーナなどに結びつくような時代に流されない強い音楽です。

さすがロビー・ロバートソン、策略家です。

ザ・バンドの音楽はギタリストのロビーが作っているにもかかわらず、あまりギターが活躍してません。
テクニックは相当にありライブではかなりの活躍ぶりですが、アルバムにおいては控えめな演奏です。そういう意味でもマクロな視点でバンドを見てプロデュースしていました。

ザ・バンドは質の高いアルバムをリリースしていきますが、1975年に「南十字星」という極上のアルバムをリリースした後、解散します。解散コンサートの模様は「ラスト・ワルツ」というドキュメンタリー映画になっています。
ゲストが豪華で何度見たかわからないくらいの私に取っても名作です。

その後、多分契約の問題で「アイランド」をリリースしますが今までのアルバムから漏れた寄せ集めで、なんとも “でがらし感” のあるアルバムでした。(いい曲も有りますよ)

その後、ソロアルバムや映画のサウンドトラックで作品を続けます。
映画「キング・オブ・コメディ」のエンディングロールで使われたヴァン・モリソンの歌うロビー作「ワンダフル・リマーク」はおすすめです。最後の方でロビーらしいギターも聞かれます。
(残念ながら公式のリンクできる音源は見つかりませんでした)


またソロアルバムも8枚ほどリリースしています。中でも「ロビー・ロバートソン」「ストーリーヴィル」「How To Become Clairvoyant」(クレイヴォヤント?読み方に自信なし)は特に名作だと思います。
ソロ名義でもダニエル.ラノアと組んでみたり、新しいサウンドを取り入れたりとソロでも質の高いアルバムをリリースしました。
ラストアルバムは2019年リリースの「シネマティック」です。

1980年代に入りザ・バンドはロビー・ロバートソン抜きで再結成して活動しましたが、最後までロビーは参加しませんでした。
「みんなが望んでいる音楽、聴きたい音楽がある、それに応えるべきだ」と再結成派。
「もう何も新鮮な音楽は提供できない、なぜ今更演る必要があるんだ」とロビー・ロバートソン。
ということだろうと思います。(なんですか?、お金のためだとか言ってはいけません)

ロビーは最後までザ・バンドのアルバムのリマスターをしたりして、ザ・バンドの価値を守ろうとしていました。
そこにも意思の強さと頑固さを感じます。

演奏について思うこと。
ロビーのように技術、能力があるのにそういう部分をひけらかさず、さらっとやってみせるのは、黒沢映画の登場人物に代表されるように、日本人に好まれるはずです。
「用心棒」の三船敏郎や「7人の侍」に出てくる久蔵(宮口精二)のイメージです。
(見事に勝手な解釈です)
でもなぜかそうはなってはいないようです。特に美形でカリスマ性ありというわけじゃないしねえ。

彼のギターの音はシカゴブルーズのバンドやカントリーのバンドと同じように、フェンダーのギターをそのままフェンダーのアンプに入れて出したような音です。
今のハードロック、メタル小僧からしたら有り得ない音でしょう。
その辺も受けない理由かな。あの独特のチキン・スキン・ピッキングと鬼ビブラート奏法がいいんですけどね。

などと考えながらロビー・ロバートソンの作った音楽を聴きながら過ごします。

享年80歳、本物の強い、時代に負けない音楽を追求した人生でした。

ご冥福をお祈りいたします。

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コメント

  1. dannan より:

    Bandの声が消えギターの音も消えちまった!残るガースよどっかのバンドのバックで
    シンセかアコでも弾いてくれよ!強力なThe Bandの風を吹き荒らしてくれよ!

    • Shin より:

      dannanさま、ご感想ありがとうございます。
      ガース・ハドソンのキーボードは見た目に似合わずアグレッシブでプログレッシブですよね。
      マルチプレイヤーでバンドの連中も全員、一目置いていました。
      もう一回ディランとかニール・ヤング、ヴァン・モリソンあたりと演ってくんないですかねえ。