ブルーズ、ゴスペルを語る上で必ず触れなければならない人物に、孤高のギター・エヴァンジェリスト、ブラインド・ウィリー・ジョンソンがいます。
彼はライ・クーダー、ボブ・ディランからエリック・クラプトン、レッド・ツェッペリンに至るまでロックの世界でも多大なる影響を与えた人です。
盲目でサングラスをかけ、街の辻でギターを弾きながらゴスペルを歌っていました。
ギターの先、ヘッドの部分に空き缶がくくり付けられていて、そこに投げ銭を入れてもらいます。
時折、折りたたみナイフとサムピックでスライドギターを弾いたりします。
そういう生活をしていました。
もうそれを思いながら聞くだけで一生忘れられないくらいの強烈な印象が残ります。
そして声がまた凄いのです。だみ声です。歪んでいます。
メーターのレッドゾーンを振り切って電圧的なリミッターがかかっているような感じです。
さらにアナログレコードの時代は「SP盤の板おこし音源」だった為、スクラッチノイズの向こうで聞こえる呻き声のような歌で、楽しい音楽の3要素のメロディ、リズム、ハーモニーなんて感じている場合ではありません。
ブラインド・ウィリー・ジョンソンを聴いていると信仰心につながっているであろう強さとか、激しさを感じます。癒しとは対極にある強くなければ生きられないというリアルです。
なんだかんだと自分なんかまだまだ甘えているだけではないか。みたいなことを思ってしまいます。
昔何かで「人生にはジョン・コルトレーンが必要な時期がある」という文章を見た記憶がありますが、質が違うとはいえ、同じようなことがブラインド・ウィリー・ジョンソンにも感じます。(個人の感想です)
来歴
ジョンソンは1897年1月25日、テキサス州ペンドルトンに生まれました。生まれつき盲目ではなかったようです。
一説によるとジョンソンが7歳の時に継母からアルカリ溶液をかけられて失明したと言われています。
また、5歳の時に父親からシガーボックスギターをプレゼントされて楽器を覚えたとのことです。
使用ギターはこの時代のブルーズミュージシャンはほとんど持っていたステラ・ギターです。
このギターはギブソンの低価格のギターも足元にも及ばないくらいの安いギターだそうです。
同じくテキサスのブルーズマン、ブラインド・レモン・ジェファーソンと同じ通りで演奏していた時もあったそうですが関係性は不明とのこと。
ジョンソンは1926年、もしくは27年にウィリー・B・ハリスという女性と未登録ながら結婚して1931年にサム・フェイ・ジョンソン・ケリーという娘をもうけました。
教会でジョンソンがピアノを弾いて、奥さんが歌うこともあったようです。
別のアンジェリーヌという人と結婚していたとの話もありますが、詳細は不明です。
生涯を通して1927年から1930年の間に5回のレコーディングセッションをして30曲を録音しました。
1945年9月18日、テキサス州ボーモントで肺炎で亡くなりました。病院へ行きましたが黒人で盲目であることを理由に診察を拒否されたそうです。
ブラインド・ウィリー・ジョンソンの写真は1枚しか残っていません。
1977年、NASAの研究チームはジョンソンの名曲「Dark Was The Night Cold Was The Ground」の音源を宇宙の生命体探査機ボイジャーに乗せ、人類のメッセージとして宇宙に送りました。
ちなみに他にはモーツアルト、バッハ、ベートーベンとかルイ・アームストロング、チャック・ベリーも一緒だそうです。
誰もが知っている有名アーティストに混じってウィリー・ジョンソンがいることにロマンを感じます。
アルバム「アメリカン・エピック : ザ・ベスト・オブ・ブラインド・ウィリー・ジョンソン」のご紹介です。
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
01, John the Revelator
力強く歌われるゴスペル・ブルーズの代表曲です。ヨハネの黙示禄の内容を歌っています。ゴスペルグループのゴールデン・ゲイト・カルテットやデルタブルーズのサン・ハウスらも歌詞を変えながら歌っています。
02, It’s Nobody’s Fault But Mine
レッド・ツェッペリンで有名な曲です。他にもルシンダ・ウィリアムス、ライ・クーダー、グレイトフル・デッドなどがカバーしています。サン・ハウスと同じようなギター奏法です。
03, If I Had My Way. I’d Tear the Building Down
ロックンロールに繋がるようなノリの曲です。ゲイリー・ディヴィス、ピーター・ポール・アンド・マリーがもカバーしています。
04, God Move on the Water
旧約聖書とタイタニック号の沈没事故を合わせて歌っています。テキサス州で発祥した曲でリズミカルなスライドギターが聴けます。マンス・リプスカムも録音しています。
05, The Soul of a Man
スライドギターと共に豪快に歌います。
06, I Know His Blood Can Make Me Whole
1927年の録音で同じ年にピードモントのブルーズマン、バーベキュー・ボブも録音しています。
07, Church, I’m Fully Saved Today
讃美歌をアレンジしたゴスペルです。ウィリー・B・ハリスと掛け合いで歌っています。
08, Let Your Light Shine on Me
聖書にある言葉を歌にしています。アメイジング・グレイスの曲調でメロディアスです。
09, Mother’s Children Have a Hard Time
あまり似ていませんけど、クラプトンのマザーレス・チルドレンの原曲です。
10, Lord, I Just Can’t Keep from Crying
いろんなゴスペルグループが録音しており、ゴスペル・スタンダードとなっています。
11, Trouble Will Soon Be Over
(この人にしては)のどかな感じで歌っています。ジェフ・マルダーやシニード・オ・コーナーも録音しています。
12, Jesus Make Up My Dying Bed
ボブ・ディラン、レッド・ツェッペリンもカバーしている有名曲です。あまり共通点はありませんけど。
13, Bye and Bye I’m Going’ to See the King
(この人にしては)軽いタッチで歌っています。カーターファミリーなどカントリーでも取り上げられています。
14, Praise God I’m Satisfied
奥さんのウィリー・B・ハリスと歌っています。この豪快なノリはロックです。
15, Keep Your Lamp Trimmed and Burning
ブルーズではゲイリー・デイヴィス、ミシシッピ・フレッド・マクダウェル。後はホット・ツナ、コリー・ハリスなどがカバーしている有名曲です。(この人にしては)綺麗な録音です。
16, Dark Was the Night, Cold Was the Ground
歌詞がなくスライドギターとうめき声だけです。ライ・クーダーの映画「パリ・テキサス」でのカバーが有名です。でもライ本人も含めて誰もがブラインド・ウィリー・ジョンソンには敵わないと言っています。
このアメリカン・エピック の音は今までで一番リアルになって聞きやすいです。昔に比べるとテクノロジーの進化に感謝です。
今のところレコードか配信でしか手に入りません。
現在入手可能なCDを紹介します。
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