「クライシス」は1983年にリリースされたマイク・オール°フィールドの8枚目のスタジオアルバムです。
イギリス出身のマイク・オールドフィールドはマルチプレイヤーでありコンポーザーであり、サウンドエンジニアでもあるという多彩なアーティストです。
マイクは1973年に映画「エクソシスト」のサウンドトラックで有名になった「チューブラー・ベルズ」でセンセーショナルにデビューして以来10年、着実にアルバムをリリースしており本作は8枚目のアルバムとなっていました。
映画の、しかもオカルト映画のサウンドトラックという本人の望んでいない状況でなかったとはいえ「チューブラー・ベルズ」でいきなりピークを迎えた感じでした。
次作の「ハージェスト・リッジ」、3作目の「オマドーン」と4作目の「インカーテーションズ」までは同じ志向のアルバムをリリースしていきます。
初期のそういったアルバムはプログレファンなどからも評価が高く、ある意味中毒的でマニアックなファンを増やしていくことになりました。
この時期の内容はLP片面1曲づつの計2曲で完結する構成です。
プログレッシブ・ロックの文脈で語られることもありましたが、この独自路線の確立によってニューエイジ・ミュージックと呼ばれるようになります。
そして4作目の「プラチナム」から変わってきました。
曲が短くなってポップな要素が入ってきます。
コーラスなど人の声の比重が大きくなり「ファイブ・マイルズ・アウト」ではついに歌が主役の曲が登場しました。
以降、歌もののストレートでキャッチーなポップセンスも評価されるようになります。
ホール・アンド・オーツが「ファミリー・マン」をカバーしたりしています。
そしてこの本作「クライシス」ではついに大ヒットとなる「ムーンライト・シャドウ」が現れました。
と言いつつも昔からのニューエイジ・ミュージックやミニマル・ミュージック的な手法も完全に捨てたわけではなく、ここでもアルバムA面を占める大作「クライシス」が入っています。
相変わらずのマイク・オールドフィールド節なのですが、初期の頃と趣が違ってきているのも事実です。後述するアルバムジャケットの関連も考えながら聴くのが味わうコツです。
サウンドは長尺の組み立てながら、よりリズミカルでポップなフレーズが聞かれます。
しかしなんと言ってもこのアルバムの目玉はLPレコードのB面の最初を飾る「ムーンライト・シャドウ」です。
シングルカットされてヨーロッパを中心に大ヒットとなりました。
9カ国で1位となる快挙を達成しています。
ポップスの美味しいところを盛りつけたようなメロディは聞けば納得と感じさせられるものです。
ヴォーカルはスコットランド出身のマギー・ライリーで、別のバンドで活動していましたが1980年の「QE2」からコーラスで参加するなどマイク・オールドフィールドと活動をともにしてきました。
マイクの書いたポップな曲に声質が合っていて他にも1984年リリースの「ディスカバリー」収録の「トゥ・フランス」や「ポイズン・アロー」などこの組み合わせならではの名曲があります。
レコーディングはバッキンガムシャー州デナムで行われました。
プロデュースはマイクオールドフィールド本人とドラマーのサイモン・フィリップスとなっています。
アルバムジャケットのアートワークはイギリスの小説家、作家、エッセイストであるジェームス・グレアム・バラードの1962年に発表した「The Drowned World=水没した世界」の版画として制作されたものを使用しています。
1962年に温暖化によって地球の大半が水没して住めなくなった世界を描いているというのはなかなか先見性のあるSFです。
マイク・オールドフィールドのポップ感覚は後になって出てきたものではなく初期の大作アルバムの時代からシングル用に5分以内で収まる曲も作ってきていました。
大ヒットするような曲はありませんでしたが、これまたニッチなファンにはとっても好評でした。
個人的な思い出として1980年くらいに初期のマイク・オールドフィールドのシングルを集めたミニ・アルバムがあ離ました。
そこに1977年シングルリリースの「ウィリアム・テル序曲」や1979年の「ブルー・ピーター」、1976年の「ポーツマス」などが入っており、密かなのお気に入りだったことを思い出します。
マイク・オールドフィールドは一貫して伝統的なメロディや楽器に拘りながら、ポップなメロディを奏でるというところが聴きどころであり魅力となっています。
今のところ歌ものポップサイドの最後の作品は2013年にリリースした「マン・オン・ザ・ロックス」となります。
これも素晴らしくポップな美メロが詰まった気負わない名作です。
なぜか時間が経つほどに神々しささえ感じてきています。(個人の感想です)
大作指向では2017年の「リターン・トゥ・オマドーン」です。
ジャケットに何の関連性もないなあなどとツッコミつつ相変わらずな世界でホッとします。
ここにきて初期の構成に戻ったことは彼の中に何か思うところがあるのでしょう。
50年近くのファン歴をもつ私としては彼の作品に良し悪しを語る気にはなりません。
というよりリリース後何十年も経って見直し、好きになるアルバムも多い、そういうアーティストなのです。
マイク・オールドフィールドの作る音楽って、時代や時間を超越した、太古と未来を一緒にしたような感覚を感じる時があります。
ただし基本ポップなので重苦しい感覚はありません。
それはとっても精神浄化作用があります。
例えば今から人生最大の賭けに出る、などとアドレナリン出しまくりの時に聞くと、逆にストーンドしてしまってよくなかったりするのですが、ふと日常の気分をリセットしたい時には最高です。
そういえば、年とともにだんだん聞かなくなってしまう音楽というのがままあるものですが、マイク・オールドフィールドの音楽はそういうことなくエイジレスで聴けます。
ということでマイク・オールドフィールドの世界に入るにはもちろん「クライシス」も重要ですが、手っ取り早くまだマイク・オールドフィールドを知らない、聴いたことがないという方におすすめはとりあえずコレです。
2009年にリリースされた「Mike Oldfield・The Collection 1974-1983」
おしむらくは1982年までなので、「ムーンライト・シャドウ」と双璧をなす1983年の「トゥ・フランス」が入っていないことくらいか・・・。
おまけ
アルバム「クライシス」のご紹介です。
演奏
マイク・オールドフィールド
・エレクトリック・ギター(フォーリン・アフェア、タウラス3を除くすべて)
・エレクトロ・アコースティックギター Ovation Adamus (タウラス Ⅲ)
・Ramirezスパニッシュギター (タウラス 3)
・エレクトリック・ベースギター (クライシス、ミステイク、シャドウ・オン・ザ・ウォール)
・アコースティック・ベースギター (タウラス3)
・マンドリン (クライシス、タウラス3)
・バンジョー (シャドウ・オン・ザ・ウォール)
・ハープ (クライシス)
・シンセサイザー Fairlight CMI (タウラス3を除く全曲)
・Roland ストリングシンセサイザー (クライシス、イン・ハイ・ピーセズ、フォーリン・アフェア、シャドウ・オン・ザ・ウォール)
・シンセサイザー Overheim OB-Xa (クライシス、イン・ハイ・ピーセズ)
・ピアノ (クライシス)
・Farfisa オルガン (クライシス)
・シンセサイザー Prophet 5 (クライシス)
・デジタル・ポリフォニック・シーケンサー Overheim DSX (クライシス)
・ドラムマシン Overheim DMX (クライシス)
・Simmons エレクトロニック・ドラム (クライシス)
・ベル&タンバリン&シェイカー (タウラス3)
・ヴォーカル (クライシス、ミステイク)
・・デジタルリバーゔ Quantec Room Simulator
・マギー・ライリー ヴォーカル(ムーンライト・シャドウ、フォーリン・アフェア、ミステイク)
・ジョン・アンダーソン ヴォーカル(In High Places)
・ロジャー・チャップマン ヴォーカル(Shadow on the Wall)
・サイモン・フィリップス アコースティック・タマ・ドラム(Mistakeを除く全曲)、特殊効果、シェイカー(Foreign AffairおよびTaurua3)、(Taurus3の)フィンガー・スナップ、ベル、タンバリン、ブーツ
・アンソニー・グリン ギター(Crises,Shadow on the Wall)
・リック・フェン ギター(Crises)
・フィル・すポルディング ベースギター(Crises, Moonlight Shadow)
・ピエール・モーレン ビブラフォン(In High Places)、パーカッション(Mistake)
・ティム・クロス キーボード(Mistake)
・ティム・レンウィック ギター(Mistake)
・モリス・パート パーカッションとキーボード(Mistake)
・バリー・パーマー ヴォーカル(Mistake)、リードヴォーカル(Crime of Passion)
プロダクション
・マイク・オールドフィールド プロデューサー
・ナイジェル・ルビー エンジニア
・サイモン・フィリップス 共同プロデューサー、エンジニア
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Crises クライシス
デビュー作「チューブラー・ベルズ」と同じような構成を持った曲です。
ただしタイトルに沿った形での歌詞も登場し、よりポップな雰囲気も感じます。(危機から逃げられないというを謳っているので、楽しいということではありません。)
8分あたりからは前向きな雰囲気も出てきます。
歌が終わるとまた牧歌的な雰囲気が続きますが次第にドラムのビートが煽って切羽詰まった感を出してきます。
最後は爆発、崩壊して、その後の静寂で終わるのでした。
2, Moonlight Shadow ムーンライト・シャドウ
ロックっぽくないヴォーカル、ロックっぽくないギター、でも軽くないドラム、ポップなメロディと不思議が重なり合って、マイク・オールドフィールドならではの世界が描かれます。
名曲です。
3, In High Places イン・ハイ・プレイス
無伴奏のヴォーカルで始まります。
歌っているのはなんとイエスのジョン・アンダーソン様です。
マイク・オールドフィールド作の曲をジョン・アンダーソンが歌うのですから文句のつけようががありません。
ちなみにマイクによるとジョン・アンダーソンはとっても仕事のしやすい人だそうです。
4, Foreign Affair フォーリン・アフェア
マギー・ライリーのヴォーカルによるビートがどっしりした曲です。
共同で歌詞を作ったそうです。
ちょっとフシギ系が入っている感じもいいのです。
5, Taurus 3 タウラス3
全ての楽器をマイクとサイモン・フィリップスが演奏しました。
二人で競争している雰囲気も感じます。
ここらへん、マイク・オールドフィールドも人に揉まれて変わってきたなあと感じております。
もちろんいいことです。
タイトル通り、このタイトルの曲は過去2回登場しています。
10分を超える「QE2」収録の「Taurau 1」、アルバムテーマのフレーズで遊んだりして24分を超える「ファイヴ・マイルズ・アウト」の「Taurus 2」です。
それらに比べると速いテンポで短いバージョンとなっています。
1、2を聴いていると最終のところで “どっかどっかどっか” という勇壮なリズムになるので、個人的には「牡牛座」というより単純に「雄牛」をイメージしてしまいます。
1、2で誇り高い雄牛が描かれており、3は決闘をイメージします。(個人の感想です)
個人的なことではその昔、楽器のメンテナンスをしていた頃、モーグ・シンセサイザーの足踏み鍵盤で「タウラス」というのがありました。そのラベルに雄牛が描かれていて、未だそのアナログ・シンセのイメージを引きずっているのです。
6, Shadow on the Wall シャドウ・オン・ザ・ウォール
ロジャー・チャップマンがヴォーカルです。
マイクは彼の声を意識してこの曲を書いたそうです。
そういうこともできる人になったのです。
(褒めてます)
ハードな曲調なんですが、なんとなく暴力的なことやサウンドのトゲは感じられないところがマイクらしいのです。
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