「何にもないけどブルーズはあるのさ。その1、ジャズ編」Nothing But The Blues : Herb Ellis / ナッシング バット ザ ブルース / ハーブ・エリス

 「Nothing But The Blues]、深くて人生を感じる言葉です。しみじみといいタイトルだと思います。
知っている限り、今まで正式なこのタイトルのアルバムは3枚リリースされています。

・1957年 ハーブ・エリス 
1980年代から聴き始め、いまだに愛聴盤です。

・1977年 ジョニー・ウインター 
名盤です。密かに尊敬してます。

・2022年 エリック・クラプトン 
2022年9月発売、1990年代のサン・フランシスコのフィルモア・ウエストのライブです。ブルーズ への愛情が伝わります。聴けばやっぱり上手いです。

偶然にも3人とも白人のブルーズ マンです。その他には同名のブルーズのコンピレーションボックスで30枚セットというのもありますが、単独作ではないので、ここでは外します。

ジョニー・ウインターとクラプトンはこのタイトルを付けるのに相当勇気が必要だったことと思います。このブルーズ を背負ったようなネーミングで失敗は許されません。(知らんけど)
とはいえハーブ・エリスは最初なので、素直に感じたままをタイトルにしたのでしょう。
内容についてはなんといいますか、この時代のジャズの主流であったハードバップとは違います。
もっと前の時代にあったようなジャズです。しかしながらアルバムを通して統一感があり、しみじみといい演奏が詰まっています。

ギター奏法にはカントリー 、ヒルビリーなどのバックボーンを感じます。軽快なカッティングも良いし、ジャズギタリストには珍しくチョーキング(ベンディング)もします。
そこらへんがまた “軽い” とか “チャカポコギター” とか言われてハードコアなジャズ愛好家から評価されない部分なのですが、こういうスタンスの人がいるおかげでジャズの幅も広がります。
ジャズギターの巨匠ウエス・モンゴメリーやケニー・バレルのブルーズとはまた違った味わいがあります。
軽いけれど哀愁があって、そこはかとなくコクのあるブルーズの世界です。

来歴

ハーブ・エリスは1921年8月4日、テキサス州ファーマーズビルで生まれました。本名はミッチェル・ハーバード・エリスといいます。小さい頃からギターに興味を持って、ノーステキサス州立大学で音楽を専攻しましたがお金がなくて短期間で終わりました。1941年には大学を中退して音楽活動を始めます。
1953年から1958年までオスカー・ピーターソントリオで演奏したことで有名になり、以降は安定して演奏活動を続けていきます。
1994年にはアーカンソージャズの殿堂入り、1997年にはノーステキサス州立大学から名誉博士号を授与されています。
そうそう派手さはないものの、じっくりと我が道を歩んだ人生でしたが、2010年3月28日に88歳でアルツハイマーによりご逝去されました。

まことに勝手なことを言わせてもらいますと、私はずっと楽器を演奏するなどして指先などの運動をするとか、肺を使って歌を歌うとか、芸術を無から創作するとか、そういった生活を営む人たちはアルツハイマーとかは無縁であると勝手に信じていました。(趣味の言い訳にもしていました)
ところがここにきてハーブ・エリスさんやAC/DCのマルコムさんが見事に反証してくれました。(泣)
別の意味ではアーティストも天寿をまっとうできる、そういう良き時代になったのだと思います。

アルバム「ナッシング・バット・ザ・ブルーズ」のご紹介です。

演奏

ギター ハーブ・エリス
ベース レイ・ブラウン
ドラムス スタン・レヴィ
テナー スタン・ゲッツ
トランペット ロイ・エルドリッジ

LPレコードは8曲目までですが、CDはボーナストラックが増えて。オスカー・ピーターソン、コールマン ・ホーキンス、ディジー・ガレスピーといった巨匠たちも登場します。
でもオリジナルの統一感のある雰囲気もなかなかです。1~8トラックと9~12トラックは分けて聴いていただきたいところです。


曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


01,  Pap’s Blues

落ち着いた雰囲気のブルースで始まります。こういうシブさもいいものです。ギターはシングルノートでチョーキングフレーズも出てきます。

02,  Big Red’s Boogie Woogie

ノリの良いブギです。サビの部分でホーン登場となるのですが、思わず「ヒャッホー」と叫びたくなります。ギターはチャッチャカ、チャッチャカ、ポコポコ、ポコポコとボディを叩いて軽快にリズムを刻みます。

03,  Tin Roof Blues

いなたい感じ満載のブルーズです。管楽器とギターの絡みが雰囲気を出してます。


04,   Soft Winds

軽快なフォービートに乗せたブルーズです。ソロを回していきますが、バックに回ったハーブ・エリスもいい感じです。


05,  Royal Garden Blues

これも軽快なブルーズです。ダンスフロアーで盛り上がる様子が見えるようです。


06,  Patti Cake

ドラムのビートに乗ってゴージャスな雰囲気です。メロディが綺麗です。


07,   Blues For Janet

しっとりとした曲に戻ります。このアルバムを象徴しているようなトーンです。


08,  Blues For Junior

最後はこのちょっともの悲しい雰囲気で終わるのがいいのです。
ここまでがオリジナルアルバムの収録曲となります。


09,   Les Tricheurs
10,  Clo’s Blues
11,  Phil’s Tune
12,  Mic’s Jump
悪くはありませんがやはりオリジナルアルバムフォーマットが素敵です。ボーナストラックはハーブ・エリスの出番も少なめです。

以上が現状手に入るCDの曲目です。
しんみりしたり、軽快に叫んだり、ニヤリとしたり、ホロリとしたりで楽しいアルバムです。何十年も飽きずに定期的に聴いています。

今後も「Nothing But The Blues」というタイトルのアルバムが出れば買い続けるんだろうなぁ。と思いつつ。

黒くないブルースもいいものです。

Bitly



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