

いやあ、勝手な話ですが待たせてもらいました。
ザ・キンクス60周年企画として始まったこの「ザ・ジャーニー」シリーズですが、2023年3月に「パート1」、11月に「Part 2」がリリースされて以降は音沙汰がありませんでした。
「もしかしたらあまりの売り上げの悪さにまた企画倒れか、まあそれもキンクスらしいけど」」なんて思っていたところ2025年7月11日に突如として、めでたく60周年記念アンソロジー・アルバムの最後を飾る「Part 3」がリリースとなりました。
今回もCD、レコード、ウェブ配信と入手方法が選べます。
内容については「Part 3」は1977年から1984年に掛けてのRCAとアリスタ時代からの選曲となっています。
個人的にはここらあたりからリアルタイムで聴いていたので感慨もひとしおです。
CDでいうと一枚目はスタジオ録音のリマスターによるベスト盤的な選曲で、二枚目は1993年のイギリス、ロイヤル・アルバート・ホールでのライブです。
はい、最近のスペシャル・エディションとかデラックス・エディションによくある本編に続いて未発表ライブを追加しました、というやつですね。
できるならライブは別にリリースしてもらって、60周年記念企画ならば今までのカタログから整理して欲しいなあ、と正直思いますがもう遅かりしです。
もちろんそういう見え見えの販売戦略にもノってしまうのがファンの悲しい性(さが)なのです。
(正しいファンの姿です)
スタジオ録音の方のアウトラインとして、キンクスはRCAでのニッチでオタクな音楽感を繰り広げていた時期から脱出して、ポップでロックなライブバンドに戻っていった時代でした。
この時期の重要な出来事として、ヴァン・ヘイレンがデビューアルバムで初期キンクスの代表的ナンバー「ユー・リアリー・ガット・ミー」をカバーして大ヒットさせたこと、それとブリティッシュ・パンクの若いミュージシャンから支持されたことが挙げられます。というよりキンクスの方でパンクに触発され、俄然やる気を出してしまったのです。

パンクに触発されたアルバム「ロウ・バジェット」とライブ「ワン・フォー・ザ・ロード」によって上昇気流に乗ります。
そして「カム・ダンシング」の大ヒットによって1980年代の音楽シーンの中心に戻ったかのようでした。
「かのようでした」というのは1983年にアルバム「ステート・オブ・コンフュージョン」からシングルカットされた「カム・ダンシング」はアメリカで6位となり、キンクスとしては10年ぶり以上の大ヒットとなったのです。
しかしテクノ、ニューウェイヴ前世の時代にこういう懐かしきダンスホールでのロマンスを歌ったナンバーは時代の先端でも主流でもありませんでした。
どちらかといえばコンピュータープログラムやデジタル化に対する逆張り、アンチテーゼです。
今となってはとってもキンクスらしい動きなのですが、当時はいい曲だけどめちゃ古臭い感じを狙って来たなあという感想でした。
とあれヒットシングル「ドゥ・イット・アゲイン」なども含めて、ここで第三のピークが来たという状況となります。
そして今回初めて発表された1993年のライブです。
この頃になると1960年代のキンクスと同じとは思えないくらい音が厚くなってまとまっています。
1993年は来日もしてくれて、わたくしも五反田ゆうぽうとホールに行った記憶があります。
この時は最初の数曲はレイとデイヴの弾き語りで始まりました。
1995年にも来日してくれましたが、ここらまでがキンクスとしての主な活動時期だったと思います。
スタジオアルバムとしてはこの後、(というか「ジャーニー・パート3」の範囲以降)1986年に「シンク・ビジュアル」、1989年「UKジャイブ」、1993年「フォビア」と三枚のスタジオアルバムをリリースしたのですがセールス的には不調でした。
中にはいい曲や面白い視点もあったものの空回り気味で、最後の「フォビア」に至ってはレイ・デイヴィス本人も全く評価していないようです。
今となってはキンクスらしさというのはやはりミック・エイボリーがドラムを叩いていた時代までという気がします。

ザ・キンクスとは傑出した演奏力とか技巧があるバンドではありませんでした。
ヴォーカルのレイ・デイヴィスはロックヴォーカリストとして上位にランクされることはまずありません。
ギターのデイヴも名ギタリストとしてトップ100などに入ることもありません。
オリジナルメンバーのドラマー、ミック・エイボリーも名ドラマーとしてはいつもランク外の扱いです。
それでもキンクスはなぜか魅力あるバンドなのです。
レイ・デイヴィスの世間に対するシニカルな視点、弱い立場の人への優しさ、権力者への皮肉などが市井の人々を惹きつけます。
楽曲も凝ったものもありますが、特にヒットした曲なんかは構成もシンプルでコード進行なども至ってふつうだったりします。
それでも他にはないキンクスらしい味わいに溢れています。
そういうキンクスは、特にエリートでもなく、突出した才能を持ち合わせてもいない、何かと失敗やミスも多い、それでもしぶとく生きていかなければならない、という大多数の “割と不器用だけど人よりちょっと繊細な感性を持つ” 人たち(私も含まれます)に刺さるバンドなのではないでしょうか。
初期のキンキーサウンドによる成功のあとはフォークに走ったり、ボードビル調とか、ノスタルジックなメロドラマ、ショービジネスとかお昼寝ソングなどを歌っておったのです。
そしてこの「パート3」の時期に入ると、いきなりパンキッシュになってエネルギッシュにライブを演りまくったのでした。
キンクスはあまり器用でも世渡り上手にも見えなくて、世間とずれていたり、ときとして無理に合わせようと流行を取り入れて結果スベってみたりするバンドです。
でもキンクスの存在は独特で他の大物バンド、ビートルズやローリング・ストーンズ、ザ・フーなどでは味わえない魅力があります。
ザ・キンクスのファンは名前の通りファンも相当ひねくれているのです。
ブリティッシュ・ロックの歴史にザ・キンクスがもしいなかったら・・・という世界線はもう今では考えられず、何らかの形でいろんなバンドに影響を与えています。

アルバム「ザ・ジャーニー、パート3」のご紹介です。
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
CD1
2025 Remaster
01. Catch Me Now I’m Falling キャッチ・ミー・ナウ・アイム・フォーリング
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース、バックヴォーカル
ミック・エイヴォリー ドラムス
1979年7月リリースのアルバム「ロウ・バジェット」からです。
このアルバムは昔から楽曲はいいものの音圧が低く音が薄いと感じていました。
今回のリマスターではそこが改善されてぶ厚い音になっています。
ザラザラしたロックらしい音です。
歌詞にキャプテン・アメリカとマーベルのキャラクターも登場します。
このアルバムは他に「スーパーマン」というタイトルの曲もありますし、アメリカの上手くいっていない状況を謳っているようです。
リフにローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」が出てくると言われていましたが、似ているけどそこに寄せてはいないような気がします。
02. (Wish I Could Fly Like) Superman スーパーマン
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース、バックヴォーカル
ミック・エイヴォリー ドラムス
これまた1979年7月リリースのアルバム「ロウ・バジェット」からです。
その昔「デヴィッド・ワッツ」という曲で勉強もスポーツも万能のクラスメイトに憧れる、というのがありましたが、これも同じくスーパーマンみたいになりたいという曲です。
いやスーパーマンになりたいというより「I Wanna be a Better Man」と歌ってるように「せめてもうちょっとマシになりたい」という感じなんです。
キンクスにはこの世界があるので、他の大物ロックバンドとは違います。
03. A Rock ‘n’ Roll Fantasy ロックンロール・ファンタジー
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
アンディ・パイル ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
ジョン・ゴズリング ピアノ、オルガン、シンセサイザー
1978年5月リリースのアルバム「ミスフィッツ」からのナンバーです。
シングルカットされて久しぶりのトップ30ヒットとなりました。
ここではロックンロールの夢を見ながら生きることを優しく歌います。
04. Sleepwalker スリープウォーカー
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジョン・ダルトン ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
ジョン・ゴズリング ピアノ、オルガン、シンセサイザー
1977年2月リリースの「スリープウォーカー」からタイトルナンバーです。
名曲づくめのアルバムで個人的にはランクが高いです。
この曲はニューヨークに引っ越したレイ・デイヴィスの当時のことを歌にしているそうです。
ちなみにアルバム2曲目の「Mr. Big Man」という曲はアメリカの「To Be With You」で有名なハードロックバンド、ミスター•ビッグ の元となったと言われていました。
05. Living On A Thin Line リビング・オン・ア・シン・ライン
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
イアン・ギボンズ キーボード
1984年11月リリースの「ワード・オブ・マウス」からのナンバーです。
キンクスには似合わないのですが、1980年代サウンドに近づけています。
06. Come Dancing カム・ダンシング
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
イアン・ギボンズ キーボード
1983年5月リリースの「ステート・オブ・コンフュージョン」に収録され、シングルカットして大ヒットとなりました。
PVが今見ると秀逸です。
07. Around the Dial アラウンド・ザ・ダイヤル
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
イアン・ギボンズ キーボード
1981年8月リリースのアルバム「ギブ・ザ・ピープル・ホワッツ・ゼイ・ウオンツ」からのナンバーです。
アナログ無線で合わせる音から始まり、ヘビーなサウンドが入ってきます。
この時期、俄然やる気を出していたキンクスなのです。
08. Do It Again ドゥ・イット・アゲイン
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
イアン・ギボンズ キーボード
1984年11月リリースの「ワード・オブ・マウス」からのナンバーです。
この時代の都会で働くサラリーマンの悲哀です。
ちんどん屋スタイルのPVもなかなか良かった。
09. Better Things ベター・シングス
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
イアン・ギボンズ キーボード
1981年8月リリースのアルバム「ギブ・ザ・ピープル・ホワッツ・ゼイ・ウオンツ」からのナンバーです。
明日はもっといいものになる、という人生の応援歌です。
たいして大ヒットにはならなかったのですがイギリスでは1972年以降、久しぶりにヒットチャートに登場しました。
10. Destroyer デストロイヤー
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
イアン・ギボンズ キーボード
これまた1981年8月リリースのアルバム「ギブ・ザ・ピープル・ホワッツ・ゼイ・ウオンツ」からのナンバーです。
初期のヒット曲「オール・デイ・アンド・オール・オブ・ザ・ナイト」をモチーフにしたリフで展開します。
歌詞に「ローラ」も登場します。
1980年代っぽいサウンドです。
11. Low Budget ロウ・バジェット
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース、バックヴォーカル
ミック・エイヴォリー ドラムス
1979年7月リリースのアルバム「ロウ・バジェット」からタイトルナンバーです。
お金がないので節約しないと生きていけない状況を謳っています。
この曲の世界がとってもキンクスらしく、リフもタメが効いていてライブ映えする曲です。
「座ることもできない」「サイズは34インチなのに予算の関係で28インチのズボンを買っている」、なんていう歌詞が出てきたりして、個人的にはツボです。
後期を象徴する曲だと勝手に思っています。
コーラスで
「低予算」 「何だって」
「低予算」 「もう一回言ってみろ」
「低予算」 「毎日だよ」
「低予算」 「死ねって言うのか」
「低予算」 「I’m a Cut Price Person in a Low Budget Land」
さすがキンクス。
12. Misfits ミスフィッツ
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
アンディ・パイル ベース
ミック・エイヴォリー ドラムス
ジョン・ゴズリング ピアノ、オルガン、シンセサイザー
1978年5月リリースのアルバム「ミスフィッツ」からタイトルナンバーです。
不適合者と言うことを謳っています。
この時期キンクスはチャートアクションとしては上昇気味でしたがバンド内は不和でバラバラ状態だったようです。
「あなたはいつも馴染めていない」と自分に向かって歌う内省的な曲で、レイ・デイヴィスらしい曲です。


CD2
Live at the Royal Albert Hall, 1993
レイ・デイヴィス ギター、キーボード、ヴォーカル
デイヴ・デイヴィス ギター、バックヴォーカル
ジム・ロッドフォード ベース
ボブ・ヘンリット ドラムスイアン・ギボンズ キーボード
*参考までに1980年のライブ「ワン・フォー・ザ・ロード」からの映像もお楽しみください。
01. One Of Our DJs Is Missing ワン・オブ・アワ・DJズ・イズ・ミッシング
鐘の音と共に「ユー・リアリー・ガット・ミー」のリフやスペイシーな効果音などで盛り上げる、オープニングの演出です。
カウントダウンで「エンド・オブ・ザ・デイ」に繋げていきます。
02. Till The End of The Day ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・デイ
3rdアルバム「ザ・キンク・コントラバーシー」に収録されシングルカットされてヒットしました。
パンキッシュなコーラスも最高です。
03. Where Have All The Good Times Gone ホエア・ハブ・オール・ザ・グッド・タイムズ・ゴーン
同じく「キンク・コントラバーシー」に収録され、シングル「ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・デイ」のB面として発表されました。
今から思えばもの組み合わせは最強です。
ヴァン・ヘイレンやデヴィッド・ボウイのカバーも有名です。
04. Low Budget ロウ・バジェット
1979年の同タイトルのアルバムからです。
ライブアルバム「ワン・フォー・ザ・ロード」にも収録されており、個人的にはハードなリフで畳み掛けるあちらのライブバージョンの方が好みではあります。
(若かったしね)
05. Apeman エイプマン
9枚目のスタジオアルバム「ローラ・ヴァーサス・パワーマン」に収録されていて「ローラ」の次にシングルカットされましたがローラほどのチャートアクションはありませんでした。
時々、文明社会のアンチテーゼとしてキンクスはこういう動物とかお昼寝などをテーマにしたのんきな曲を書きます。
競争社会で日々の生活に疲れている人にはホッとできるテーマです。
06. Phobia フォビア
この時点では最新アルバムである1993年リリースのアルバム「フォビア」に合わせたツアーだったのです。
視点もユニークで、悪い曲ではないのですが、全体が一本調子に感じてあまりキンクスらしいアルバムではありません。
07. Only A Dream オンリー・ア・ドリーム
この曲も「フォビア」からです。
08. Scattered スキャッタード
「フォビア」から第3弾です。この曲はポップでキンクスらしくて割と好きな曲です。
09. Celluloid Heroes セルロイド・ヒーローズ
キンクスを代表する名曲の一つです。
10. I’m Not Like Everybody Else アイム・ノット・ライク・エブリガディ・エルス
1966年、大ヒットシングル「サニー・アフタヌーン」のB面としてリリースされました。
スタジオ盤の方はレイ・デイヴィスらしい怒りと悲しさが伝わる曲です。
11. Dedicated Follower of Fashion デディケイテッド・フォロワー・オブ・ファッション
この曲もキンクスを語る上で重要な曲で、イギリスのスウィンギング・ロンドンとかモッズ・ムーヴメントなどでファッションばかりに気を遣う若者を風刺しています。
1966年にシングルとしてリリースされ、イギリスで4位まで浮上しています。
12. The Informer ジ・インフォーマー
これもツアー時の最新アルバム「フォビア」からの第4弾です。
あまりライブ向けの曲でもないような・・・と感じてしまいます。
13. Death of A Clown デス・オブ・ア・クラウン
1967年のアルバム「サムシング・エルス・バイ・ザ・キンクス」に収録されたデイヴ・デイヴィス作、ヴォーカルの曲です。
ハスキーな声といかにも英国といった雰囲気が素晴らしい曲です。
14. Sunny Afternoon サニー・アフタヌーン
キンクスがハードなキンキー・サウンドと言われるパワーコード主体のロックから路線を変えた5枚目のアルバム「フェイス・トゥ・フェイス」に収録されています。
シングルカットされ、ビートルズの「ペーパーバック・ライター」を抜いて1位となりました。
ノスタルジックで哀愁を帯びたメロディは没落した貴族が税金取りに追われる生活を謳っています。
15. You Really Got Me ユー・リアリー・ガット・ミー
1964年8月リリースのザ・キンクスが一躍歴史になを残すことになったロック・スタンダードです。
ここではもう流石に若い時のような勢いは感じられません。
16. Days デイズ
7枚目のアルバム「ヴィレッジ・グリーン」の時期にシングルリリースされました。
ライブではスタジオ盤ほどの得もしれぬ壮大さは感じられませんが、個人的にはこの曲もキンクスを代表する1曲だと思っています。
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