「この十代とは思えない表現力、西欧の伝統や文学性を感じる世界はハマる人には嵌ります。ササる人には刺さります。驚異の才能を持って出現した情念渦巻くケイト・ブッシュの世界」The Kick Inside : Kate Bush / 天使と小悪魔 : ケイト・ブッシュ

 ケイト・ブッシュはイギリスのミュージシャン、シンガー・ソングライターです。
最初に申し上げておきますと、この人はあまりロック的でもジャズ的でもありません。
私の好きなブルーズとは縁遠いところにいる存在でもあります。
じゃあなんでお前は無節操に取り上げるんだとお思いの貴兄もいらっしゃるでしょうが、私にとっては無視できない存在なのです。

この唯一無二の個性は是非、時代を超えて残って欲しいものです。

サウンド的にはオルタナの走りとも言えますがケイト・ブッシュはいわば総合的に表現する芸術家です。
近い存在といえば音楽のみならずファッションやステージ演出にもこだわっていたデヴィッド・ボウイがあげられますでしょうか。
ステージ上の演出にパントマイムの動作を取り入れたりしていることなどからもそういうふうにも思えます。

ただしリリースされるアルバムは女性であるケイトならではの感性で作り上げられており、また違った世界が感じられます。

彼女ならではの声とか描き出すヨーロッパの伝統も踏まえたような普遍的な世界とかを聴いていると、全然関係のない生活をしているアジアの私でも惹かれるものがあります。

そういう意味でも芸術家であり、音楽の枠を超えたアーティストです。

ケイト・ブッシュは1958年7月30日にロンドン南東部ベクスリーヒースで生まれで生まれました。
11歳から曲を書き始め、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアの協力を得て19歳の時にシングル「嵐が丘」でデビューします。

このシングルは4週間イギリスのチャートのトップに立ちました。
そしてオリジナル曲でイギリスでチャートの1位になった初めての女性アーティストとなったのです。

サウンド的にはポップスに近い感じです。
ただ通常のイメージのポップスとは違って軽やかに愛を歌うものではなくもっと深い憎悪や情念などを感じます。
自分で作詞作曲しライブ演出、アルバムプロデュースまでこだわることからロック・アーティストの分脈で語られます。

彼女の作るサウンドは声も含めて個性がハンパない世界です。

このデビューアルバムはデヴィッド・ギルモアやアラン・パーソンズ・プロジェクトのメンバーなどサポートしたことからも若干プログレッシブ・ロックとの親和性も感じられます。

イギリスではアルバム・チャートの3位まで上がりましたが、アメリカでは業界の評価は高かったもののトップ200にも入りませんでした。
イングランドを感じさせる音楽はアメリカでは売れないことは軽音楽の世界ではよくあります。

顔はなかなかの美人ですが、女優みたいにとっても美人とか、アイドルみたいに可愛いとかではありません。
若い頃から母親的な顔つきだと感じていました。(悪くいうつもりはありませんが大人顔です、老け顔とは違います)

本場イギリスでのジャケットは何やらエキセントリックな感じでしたが、日本版は目一杯女性らしく撮ったようなポートレイトが使われていました。
邦題も「天使と小悪魔」です。何やらアイドル路線で売り出そうとしていた感もありますが、かなり個性的な歌と内容なので曲を聞けばジャケットに通じるとは思えません。
このファーストアルバムは全世界で7種類用意されていたそうです。


時々、自分と同じ世代で芸術やスポーツにおいて「こいつには絶対敵わない」と思う人が現れます。
中学生くらいだとまだ自分の未来は無限大に思えるものですが、高校生ともなると流石に自分の特性がわかってきて、学問やスポーツにおける限界もわかってくるようになるものです。
尚且つ容姿や人間性などもある程度は客観的に見れるようになります。

私はその高校生の時に初めてケイトブッシュを聴いて、そして彼女の年齢が自分と大して違わないことを知り、「世の中には自分と大して年齢が変わらなくても自分では話にならないくらいの天才がいるんだ」と驚嘆しました。
アルバム収録曲は11歳の時に書いたものもあるとのことです。
そこらへんのティーンエイジャーとは思えないくらいオマセさん、というより芸術的なのです。
この感性はすごいと素直に驚嘆しました。
もし近くにいたりしたら裏方に回ってでもできる限りの才能のサポートしてあげたい、と感じる種類の天才でした。
思えば友達にケイト・ブッシュをゲキオシしても反応が冷たかったことも合わせるとハマる人にはハマる存在かもしれません。
「声が嫌い」という次元で拒否する人もいるようです。(泣)

ヒットしたデビューシングル「嵐が丘」はその名の通りエミリー・ブロンテの文学作品をもとにした内容です。
この年で情念を感じるようなとっても深い内容を歌うとは一体どうゆう感性をしているんだ思ったものです。
私としては当時「嵐が丘」の本は図書室で見かけていましてが、「罪と罰」や「カラマーゾフの兄弟」などと同じく自分では「そのうち読もう」という種類の本でした。
(結局、今の今まで読んではいません、ダメな僕です)

ケイト・ブッシュはデビュー後もある程度の浮き沈みはありましたが現在でも音楽活動を続けています。
彼女の記事を見ると「やっぱりなあ」と思いますが精神的におかしくなってしまった時期もあるようです。
彼女の描く世界は狂気と安らぎ、喧騒と静寂、愛情と憎悪などの両極の世界を紙一重で表していきますので、その制作過程はナミの人には耐えきれないものだと思います。
いや多分普段の生活も、というかこの感性だと普通に生活するのも大変なのではと思ってしまいます。

そして2023年には晴れて「ロックンロール・ホール・オブ・フェイム」にも選ばれました。
個人的にはそういうことで彼女が正当に評価されているとも思えないのですが、そういう公の場で名前が上がることはいいことです。
広く見れば大成功した人となりました。

もしかしたらずっと未来に今以上に評価される人なのかもしれない、と思う次第です。

アルバム「天使と小悪魔」のご紹介です。

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演奏

  • ケイト・ブッシュ
    リードヴォーカル、バックヴォーカル、ピアノ
  • アンドリュー・パウエル 
    編曲、キーボード(Tr.2)、ピアノ、フェンダー・ローズ・ピアノ(Tr.3)、ベースギター、チェレスタ(Tr.6)、シンセサイザー(Tr.9)、ビール瓶(Tr.12)
  • ダンカン・マッケイ
    ピアノ、フェンダー・ローズ(Tr.1,10)、シンセサイザー(Tr.3)、ハモンドオルガン(Tr.4,6,7)、クラビネット(Tr.4)
  • イアン・ペアンソン
    エレキギター、アコースティック・ギターTr.ex2)、バックヴォーカル(Tr.9)、ビール瓶(Tr.12)
  • デイヴィッド・バトン
    ベースギター (Tr.1,3,4,7,,9–12)、アコースティックギター (Tr.6,9)、バックボーカル (Tr.9)
  • スチュアート・エリオット
    ドラム(Ex Tr. 2,5,13)、パーカッション(Tr.9,12)
  • アラン・スキッドモア テナーサックス(Tr.2)
  • ポール・キーオ  エレキギター、アコースティックギター (Tr.2)
  • アラン・パーカー アコースティックギター (Tr.2)
  • ブルース・リンチ– ベースギター (Tr.2)
  • バリー・デ・ソウザ  ドラムス (Tr.2)
  • モリス・バート パーカッション (Tr.,3,4,6)、ブーバム(Tr.12)
  • バディ・ブッシュ マンドリン(Tr.9); バックボーカル (Tr.11)
  • デイヴィッド・カッツ  
    オーケストラ(Tr.4,5,7,8,12を除くすべてのトラックでクレジットされていないオーケストラを担当

プロダクション

  • アンドリュー・パウエル –プロデューサー
  • デヴィッド・ギルモア–エギゼクティブ・プロデューサー(Tr.2,5)
  • ジョン・ケリー–レコーディング・エンジニア
  • ジョン・ウォールズ – アシスタントエンジニア
  • ウォーリー・トラウゴット –マスタリング

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Moving 天使と小悪魔

最初の効果音がイギリスの港町を彷彿させます。初めて聞いた時から、この曲でもう首根っこを掴まれて彼女の世界に放り出された気がしました。名曲ですがケイト・ブッシュ以外は歌えません。

2,   The Saxophone Song サクソフォーン・ソング

タイトル通りサキソフォーンが活躍するメロディの綺麗な曲です。やっぱり10代の作った曲とは思えません。

3,   Strange Phenomena 奇妙な現象

ピアノで弾き語るような始まりです。演劇的ですが綺麗なメロディのため聴きやすくなっています。

4,   Kite 風に舞う羽根のように(カイト)

ノリのいい曲です。開放感がたまりません。

5,   The Man with the Child in His Eyes 少年の瞳を持った男

このアルバムで一番スローな曲です。情感が素晴らしくある意味一番ケイトブッシュらしいナンバーです。

6,   Wuthering Heights 嵐が丘

はい、言わずもがなの名曲です。こういうのダメという人は残念ながらケイト・ブッシュは楽しめないと思います。

7,   James And The Cold Gun ジェームス・アンド・コールド・ガン

ロックな曲です。なんとなくキャロル・キングの「スマックウォーター・ジャック」を連想するのは私だけ?

8,   Feel It フィール・イット

ポップで名曲です。そういう中にもヨーロッパを感じます。

9,   Oh To Be In Love 恋って何

出だしがなんとなくエルトン・ジョンの「ロケット・マン」を彷彿させます。そういえばのちに「ロケット・マン」をカバーしていました。
中間部のソロ部分は後期ビートルズを感じさせます。
参考までに「ロケット・マン」のカバーがこれ

10,  L’amour Looks Something Like You ラムールはあなたのよう

この曲もメロディが独特でいい感じです。

11,  Them Heavy People ローリング・ザ・ボール

多分このアルバムで一番正統派ポップスです。もちろん名曲です。

12,  Room For The Life 生命のふるさと

リラックスできるアレンジです。

13,  The Kick Inside キック・インサイド

最後はピアノとオーケストラで締めます。

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