「シカゴ発、ブルーズを目指した本物志向のロックバンドとは?、ブルーズロックとは?、ロックギターサウンドの起源とは?などを合わせて解説してみました。」The Paul Butterfield Blues Band 1st : ザ・ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンド

 ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンドはアメリカのブルーズロックの代表的存在です。
このバンドには特にゴールド・ディスクとかプラチナ・ディスクなどというような大ヒット作はありません。
しかし今なお時代を超えた存在感で歴史に名をのこすバンドとなっています。

ミシガン州シカゴで1963年の夏に結成され1965年19月にこの「ザ・ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンド」でデビューしました。
セルフタイトルといえば聞こえはいいものの後先も何も全く考えていないような男気溢れる潔(いさぎよさ)です。
(勝手な思い込みです)

ジャケットがまた良くてシカゴにたむろする兄ちゃん達のショットです。
このスター性、カリスマ性を感じさせない、垢抜けていない雰囲気もなかなかの味わいがあります。
(褒めてます)

サウンドについては昔っから演奏自体は素晴らしくいいものの、ちょっと音質がなあ・・・とずっと思っていました。

しかしリリースは1965年、まだ時代がロックの音を知らない時です。

もっとベースとバスドラの音を利かして重心を下げたらもっとカッコいいサウンドになる・・・なんて思うのですが、1965年ではそれは望みすぎです。

最近の音源を聴くとリマスターとは歌っていないもののベースの音などがだいぶ改善されてきました。

わたくし的にはいまだ聴き込むほどに味わいを増すスルメ盤です。

ブルーズロックのバンドは1960年代から1970年代にかけて英米でたくさん現れました。
というか雑にいえば当初ハードな演奏をするロックバンドはほとんどブルーズからインスピレーションを得ていました。

中でもアメリカのブルーズロックで一番最初にスタートした重要なバンドがこのポール・バターフィールド率いるブルーズ・バンドです。

バンドのウリはご当地シカゴ出身のバターフィールドのヴォーカルとテクニカルなブルーズハープ、現役のシカゴブルーズの黒人リズム隊などもあるのですが、それら以上にみんなに強烈な印象を与えたのはマイク・ブルームフィールドの魂のこもったギターでした。

バンドはデビュー当時から、特にミュージシャン内で評判となりました。
かのボブ・ディランも初めてロックバンド形式を取り入れた「ブリング・イット・オール・バック・ホーム」のレコーディング時にバックバンドに指名しました。
そしてあの裏切り者ブーイングで有名なニューポート・フォーク・フェスティバルにも一緒に出演しています。

この頃のマイク・ブルームフィールドはテレキャスターにフェンダーのアンプをオーバードライヴさせたサウンドが特徴となっています。
リズムギターはエルヴィン・ビショップに任せてB.B.キングと同じようにヴォーカルに絡めてギターを歌わせます。
このサウンドについては後でまた触れます。

今さらそんな古くさい、カビの生えたような音楽にはあんまり触手が・・・という貴兄、貴姉のためにロックの発展においていかに重要だったのか、今聴いても素晴らしいものなのかを語らせていただきたいと思います。

そこでまず、知っていただきたいのが<ブルーズロックとロックサウンドについて>です。

ブルーズロックとはその名の如くロックをブルーズ風に演奏することを言います。
ご存知の通りブルーズというジャンルは1860年代にアメリカ南部でアフリカから連れてこられた奴隷から生まれました。

当初はアコースティックギターやバンジョーなどを伴奏しながら歌うカントリー・ブルーズと呼ばれるものでした。
1930年代になるとSPレコードが普及することによりいつでも再生が可能になりました。
そういう中でカントリーブルーズのスターが現れます。

ロバート・ジョンソン、チャーリー・パットン、ブラインド・ブレイク、ブラインド・レモン・ジェファーソンなどです。

はい、今や神様に近い存在となっております。

1950年代になると南部の農村から都会の仕事(車の製造工場など)を求めて工業都市シカゴに集まってききました。
そこでも黒人たちの間では南部同様にブルーズがみんなに支持されていました。
南部ではアコースティックギターなどで弾き語るカントリーブルーズでしたが、シカゴの黒人のコミュニティではバンド形式のブルーズを演奏して一躍脚光を浴びるブルーズメンが現れます。

エレキ・ギターやアンプリファイドされたブルーズ・ハープ(ハーモニカ)なども使用されるようになりました。

それは地名にあやかってシカゴブルーズと呼ばれ、スターも現れました。

有名なところではマディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、エルモア・ジェイムスなどです。

はい、今や名前を聞くだけでひれ伏すしかない存在となっております。

1960年代に入るとビートルズを筆頭にブリティッシュ・インヴェンションというブームとなってアメリカの音楽界を席巻します。

彼らはアメリカの黒人音楽、ブルーズ、ロックンロール、R&Bに影響されていることを全く隠しませんでした。
というのも逆にアメリカでは人種差別によって白人と黒人の生活圏は大きく違っており、普通に生活している若者が黒人の音楽を体験することはなかなかありませんでした。
というか社会全体でまだ差別意識が高い環境なのです。

子供がチャック・ベリーやマディ・ウォーターズのレコードを聞いていた場合、親から怒られて取り上げられるる可能性が高いのはイギリスよりアメリカの方だったのではと推測されます。

黒人のミュージシャンは基本黒人しか集まらないような劇場や酒場でブルーズ、R&Bを演奏していました。

有名なのはチトリン・サーキットと呼ばれる黒人のコミュニティを回るツアーです。
1960年代のブルーズマンはえてして悪徳プロモーターに騙され、ハードでお金にもならない契約を結ばされて命を縮めていったものです。

マジック・サムやフレディ・キングなどがまさにそういった印象です。

イギリスでは直接ブルーズマンを見て体験することは難しいものの、レコードは手に入りやすい状況でした。
有名なところではローリング・ストーンズ結成もロンドンから30km弱離れたダートフォードという駅でミック・ジャガーがマディ・ウォーターズとチャック・ベリーのレコードを抱えているのを見て話しかけたことからです。
1961年10月17日のことだそうです。
ここまで覚えているとは二人とも相当なナルシストですね。

ということでイギリスではレコードを通じてブルーズ、R&B、ロックンロールが広がっていきました。

それに拍車をかけたのが「アメリカン・フォーク・アンド・ブルーズ・フェスティバル」という1962年から数年間行われたアメリカのブルーズメンによるイギリス含むヨーロッパツアーです。
1970年まで毎年開催され1972年で一旦終了するも1980年からまた復活し、最終的に1985年で終了しました。

このツアーにはマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフ、ライトニン・ホプキンスからハウンドドッグ.テイラーまでその時代に生きていた著名なブルーズマンはほぼ全員参加しています。
このイベントも欧州のブルーズ熱を根底から押し上げるきっかけとなった一つと言われています。

イギリスのロックミュージシャンはみんな口を半開きで食い入る様に見ていたそうです。
1962年の第1回開催時には客席にミック・ジャガー、キース・リチャード、ブライアン・ジョーンズ、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトン、スティーヴ・ウインウッドなどの姿が見られたとのことです。

アメリカでは人種差別によって白人の若者がブラックミュージックを体験することができにくい環境でもありましたが、とあれ音楽ですのでそういう垣根のない、例外も存在します。

ブリティッシュ・インヴェンションと同時期にアメリカでもシカゴブルーズをベースとしたバンドサウンドを演奏する白人の若者たちがいました。

それが本場シカゴのポール・バターフィールド・ブルーズ・バンドです。

彼らはドラムとベースのリズム隊をマディやサニー・ボーイ・ウィリアムソンと演っている本物のシカゴ・ブルーズの黒人ミュージシャンを使うという本物志向でした。

次に1960年の中頃に起きたロックのギターサウンドの革命について説明いたします。

ロックにおける音の革命とはマーシャルのギターアンプとジム・ダンロップのファズという気がします。
これにギブソン、フェンダーのエレキギターを組み合わせてロックギターサウンド3種の神器と呼ばれていました。
(ウソですが)

それにより鉄壁のロックギター・サウンドを誰でも手に入れることができるようになったのです。

マーシャルは1962年にイギリスでジム・マーシャルによってスタートしました。
フェンダーのアンプに対抗するためだったそうです。

このマーシャルのアンプをフルボリュームでドライブした音が今に続くロックサウンドの原点です。

最初に発見し紹介したのは1966年のエリック・クラプトンです。

とはいえクラプトンは基本まねっ子なので本当に彼が最初だったのかどうかはわかりません。
(全世界のクラプトン・ファンの皆様ごめんなさい)

アルバム「ジョン・メイオール・ウィズ・エリック・クラプトン」のレコーディングで、クラプトンはマーシャルのJTM45というアンプにレスポール(エレキギター)を接続し、周りの迷惑も顧みずフルヴォリュームで鳴らしました。

これがその後の、さらに今も変わることのないロックのギターサウンドの始まり、原点でした。

次に応用編となるのがジミ・ヘンドリクスのサウンドです。

フェンダー社のエレクトリックギターはピックアップがシングルコイルのためギブソンに比べると出力が低くオーバードライブしにくいというキャラでもありました。
しかしこれはファズの発明によりアンプの入り口でゲインを上げることが可能となりました。

ジミ・ヘンドリクスはこれ幸いとばかりにストラトキャスターをファズでドライブさせ、マーシャルに突っ込み、ストラトのアームを使ってとんでもない演奏をしてみせました。
(ストラトキャスターもマーシャルアンプに繋ぐだけでも申し分無く歪んでくれますけどね)

それまでのブルーズはエレキギターを使ってもアンプがナチュラルな音しか出せないので、心の内を表現するためにひたすらチョーキング(ベンディング)やハンド・ビブラートでロングトーンに挑戦します。

Tボーン・ウォーカーによってブルーズの世界にエレキギターが登場し、B.B.キングやフレディ・キングなどがさらにそのスタイルを発展させていきました。

感情を込めてハンドビブラートで思いっきり音を引っ張り、それでも尺が足りない分は顔をくしゃくしゃにして誤魔化すというテクニックがここで必要なくなったのです。
(誠にすみません。不適切な表現があります)

しかしいくら白人ロックギタリストたちがB.B.キングやマディ・ウォーターズに憧れようと、所詮はサカリのつき始めたばかりのマセガキたちです。
B.B.キングのように人生を背負ったような説得力のある顔芸ができるわけがありません。
(所々、不適切な表現があります)

そういうことでマーシャルアンプとファズ・エフェクターの登場、そしてTボーン・ウォーカーのギター奏法によりブルーズのフレーズを持ち込んだロック、いわゆるブルーズ・ロックが大流行することになりました。

そしてブルーズのリフをさらにハードにアレンジしてクリーム、レッド・ツェッペリン、オールマン・ブラザーズバンド、グランド・ファンク・レイルロード、マウンテンなどのハードロックへ進化することになります。
(ハードロックにはもう一つ、クラシックからの流れを持つバンドも多数出てきますが、クラプトンやジミヘンの示したオーバードライブのギターサウンドは共通しています)

ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンドはそのロックギターサウンドが出来上がる直前にデビューしたバンドです。

彼らはマディやウルフらと同じ土俵で、同じ条件で演奏して黒人ブルーズ界に殴り込みをかけたことになります。

結果は2015年にロックの殿堂入りするなど、今でも評価されるバンドとなっていることが証明してくれてます。

特にマイク・ブルームフィールドのギターサウンドは圧巻でテレキャスターをアンプにインしただけのナチュラル・オーバードライブ・サウンドですが、同時代のロックギタリストの誰にも真似できないような音を出していました。

エリック・クラプトンがマーシャルのアンプでロックの音を決定づける1年前のことです。

アルバム「ザ・ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンド」のご紹介です。

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演奏

ポール・バターフィールド  リードヴォーカル(Ex Tr.4,5,7)、ハーモニカ

マイク・ブルームフィールド  リードギター

エルヴィン・ビショップ  リズムギター

ジェローム・アーノルド  ベースギター

サム・レイ ドラムス、リードヴォーカル(Tr.5)

マーク・ナフタリン  キーボード(Tr.3,4,7,8,9,10)

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Born in Chicago ボーン・イン・シカゴ

ブルーズロックバンド、エレクトリック・フラッグのニック・グレイヴナイツ作です。
どちらかというと本人よりもこのアルバムのカバーによってブルーズ・スタンダードとなりました。
挨拶がわりに全員快調に飛ばしていきます。

オリジナル・バージョンです。

2,   Shake Your Monet-Maker シェイク・ユア・マネーメイカー

ブルーズの巨人、エルモア・ジェイムス様のカバーです。
ここでもブルームフィールドのあまりにかっこいいギターソロが堪能できます。
もちろん先達への敬意を忘れてはいません。

オリジナル エルモア・ジェームス・バージョンです。

3,   Blues with a Feeling ブルーズ・ウイズ・ア・フィーリング

1947年にリリースされたウォルター・ジェイコブスの作品です。
ウォルター・ジェイコブスとは有名なブルーズハープのリトル・ウォルター様のことです。
あの眉間に三日月型の傷を持ついかがわしい、じゃなかったとっても素敵なブルーズマンです。
もちろんここではバターフィールドのブルーズハープが大活躍しています。

リトル・ウォルター様です。

1:44秒あたり、ブレイクでブルームフィールドのギターが勢い良く入ると思いきや、感極まって音になっていません。
でも私の心には大きな音で届いています。そう感じる人は本当にブルーズが好きな人です。
(まことに勝手な解釈です)

オリジナル リトル・ウォルター・バージョンです。

4,   Thank You Mr. Poobah サンキュー・ミスター・プーバー

快調なインスト曲です。バターフィールドが車のクラクションみたいな音で煽ります。
ソロになるとロングトーンで盛り上げたりします。
ブルームフィールドもナフタリンもソロを回してみんな楽しそうです。

5,   I Got My Mojo Working アイ・ガット・マイ・モジョ・ワーキング

ブレストン・レッド・フォスターによって1956年に書かれた曲ですが、なんといっても有名なのは1960年のマディ・ウォーターズ様のニューポート・ジャズ・フェスティバルでのライブ・バージョンです。
ここでヴォーカルをとるのはドラムのサム・レイです。
最後の「がっまい もーじょ わーきん」とコール・アンド・レスポンスで歌う場面ではマディに敬意を表して「ぶるるるる わっきん」と演ってくれます。

マディ・ウォーターズ・バージョンです。

6,   Mellow Down Easy メロー・ダウン・イージー

シカゴブルーズの大作曲家であり、マディのバンドのベーシスト、ウィリー・ディクソンのカバーが登場です。
ブルーズハープとブルームフィールドのギターの掛け合いがまたええ感じです。

ウィリー・ディクソン with リトル・ウォルター バージョンです。

7,   Screamin’ スクリーミン

マイク・ブルームフィールド作のインスト曲です。
といいつつも熱く続くセッションの一部を切り取ってみた感じです。
ここでも素晴らしいバターフィールドのハープとブルームフィールドのギターの掛け合いが聴けます。
だんだんとドラムのサム・レイもノってきます。

8,   Our Love is Drifting アワ・ラヴ・イズ・ドリフティング

ポール・バターフィールドとエルヴィン・ビショップ作のスローブルーズです。
ブルームフィールドのギターがまさしく火を吹いています。
この1曲だけでもブルームフィールドは只者では無いことがよくわかります。

9,   Mystery Train ミステリー・トレイン

メンフィスのブルーズマン、ジュニア・パーカーによって作曲、リリースされR&Bスタンダードとなりました。
エルヴィス・プレスリーのカバーでも有名です。
鉄板のブルーズハープによる列車を模した演奏で、バターフィールドの十八番です。
映画「ラスト・ワルツ」でもバターフィールドによるこの曲が登場しました。

オリジナル ジュニア・パーカー・バージョンです。

10,  Last Night ラスト・ナイト

これまたリトル・ウォルターのカバーでスローかつアーバン風味のブルーズです。
ここでもブルームフィールドのギターが堪能できます。
個人的にはもうちょっとRチャンネルのブルームフィールドの音が大きくてもいいんでは、と思います。

オリジナル リトル・ウォルター・バージョンです。

11,  Look Over Yonders Wall ルック・オーバー・ヤンダーズ・ウォール

メンフィスのブルーズ・ピアニストのジェームズ・クラークによって1945年に書かれてリリースされました。
その後1961年にエルモア・ジェイムスが「ルック・オン・ヤンダー・ウォール」としてカバーし、以降エルモアのバージョンがスタンダードとなってしまいました。
ここではそのエルモア・ジェイムスに敬意を表しエルモアスタイルの真骨頂、過激で攻撃的なブルーム調を繰り広げます。みんな楽しそうです。

エルモア・ジェームス・バージョンです。

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