2023年1月10日にジェフ・ベックの訃報が世界中を駆け巡りました。いざ亡くなられると今までの偉大な業績を痛感します。
同じ年代の3大ギタリストと呼ばれた中でも若々しい感じもありましたが、一番最初に訃報を聞くことになってしまいました。
今回は「ブロウ・バイ・ブロウ」に続いて個人的に最もよく聴いたライブ名盤のご紹介となります。
最強のパワートリオとも呼ばれたジェフ・ベック率いるスリーピースバンド、ベック、ボガート・アンド・アピスのライヴ盤です。
この人は最初に加わったヤードバーズ以降、自分のバンドのネーミングには全く無頓着です。
このアルバムは、というよりベック、ボガート・アンド・アピス(以下BBA)自体がジェフ・ベック史においては専門家スジの評価が低いように思えます。
曰く “ジェフ・ベックにとっては無駄な時代だった” と。
でも私はなぜか好きなのです。BBAはブルーズやハードロックの形式に頼らず、ソウル、ファンクも取り入れた、というかそちらにも寄せたバンドです。
同じ演奏者3人というクリームやレッド・ツェッペリンとは違う表現で限界を目指したスリーピース・ハードロックバンドという認識です。
来歴
1972年、ジェフ・ベック率いる第2期ジェフ・ベック・グループはグダグダのうちに解散せざるを得なくなりました。次のプロジェクトを開始しましたがロッド・スチュアートに逃げられ、ポール・ロジャースに断られと理想のヴォーカリストが手に入りませんでした。仕方なくティム・ボガート、カーマイン・アピスとスリーピース・ユニットで活動を開始します。この構想はベックの中では2年ほど前に浮かびましたが交通事故で実らなかった夢でした。
着々と自分のステップを描いて進んでいくベックには2年も前の企画は彼にとってはもう過去の古臭いものだったのかもしれません。でもステップアップのためには唄入り3ピース・ハードロックバンドを体験しておくことは必要と思ったのでしょう。
ジェフ・ベックの描く自分のステップアップへの方法とは時代とか流行に関係なく、あくまで彼の頭で描いている自分への課題、目標と思われます。なので時々、えっ今更これやるんですかと言いたくなるようなことも平気で始めます。
世間が飽きてきた頃に打ち込みリズムに走ったり、なんの脈絡もなくロカビリーを始めたりです。
もし、ベックが商魂逞しかったらジェフ・ベックグループはもっとセンスの良いグループ名で、10年以上活躍して、ヒットチャートを賑わして、レッド・ツェッペリンをも凌ぐ存在になっていたと思います。
なにせロッド・スチュアートのヴォーカル、ジェフ・ベックのギター、コージー・パウエルのドラム、ロン・ウッドのベース、ニッキー・ホプキンスのキーボードのバンドが可能だったのです。
ともかく紆余曲折を経てBBAは発進しました。1枚のスタジオアルバムと1枚のライヴ・アルバムをリリースします。「Beck, Bogart And Appice Live In Japan」は当時2枚組LPレコードでリリースされたとんでもなくロックで素晴らしいライブです。
もう2、3枚スタジオアルバムが欲しかったところですがしょうがありません。
ジェフ・ベックはもう十分と思ったのですから。
BBAの2枚目のスタジオアルバムは全曲録音済みらしいのですが現時点でブートレッグ以外、正式にリリースされていません。BBAライヴ・イン・ジャパンもベックの意向により1989年にCD化されるまで入手困難でした。
ベックの中でもまるで黒歴史扱いです。
「ちっ、無駄な寄り道しちまったぜ」くらいにしか考えてなさそうです。
このライヴももっと色気を出して雑な部分をスタジオで録り直したり、コーラスをつけたり、音をかぶせたり、歓声を追加したりして「はい、ライヴアルバムでございます」と言ってリリースしていればもっと名盤となっているんですけどね。(キッスの「ALIVE」みたいに)
アルバム「ベック・ボガート・アンド・アピス・ライブ・イン・ジャパン」のご紹介です。
演奏
ジェフ・ベック ギター
ティム・ボガート ベース
カーマイン・アピス ドラムス
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Superstition 迷信
ドラの音と奇声、ギターがブルーズフレーズからトーキングモジュレーターで遊び、リフに突入、興奮します。スティービー ・ワンダーがベックのために作った曲です。
2, Lose Myself with You 君に首ったけ
ファンキーな曲です。ベックはフィードバックを駆使して演奏します。ドラムが乗っています。というかこのスタスタ タタタタとくるドラムは日本のドラマーに相当影響を与えてそうです。
まだ2曲目、ベースは遊びすぎという位いろんなんことをやってくれます。
3, Jeff’s Boogie ジェフズ・ブギ
ヤードバーズ時代の曲です。じゃあ俺も、という感じでジェフ・ベック大はりきり。
何はともあれ「じゃじゃ馬億万長者」が出てくるとベック の只者じゃない感が漂います。
4, Going Down ゴーイン・ダウン
ジェフ・ベック・グループの時代の曲です。コンサートでは定番です。
ベックは本当にギターを自在に操っています。というかねじ伏せている感じです。
5, Boogie ブギ
間を入れずにブギに突入です。観客を煽ります。
もうここまでくるとなんか安心して聴いていられます。
6, Morninng Dew モーニング・デュー
これもジェフ・ベック・グループの時代の曲です。意味は朝霧です。マウンテンデューという飲料がありましたが(今でもありますけど)関係ありません。などと考える14分を超えるアレンジです。
大半はドラムソロですが、カーマイン・アピスのドラムは難解でなく、ひたすら体で感じるドラムなので楽しめます。
7, Sweet Sweet Surrender スゥイート・スゥイート・サレンダー
BBAを象徴する曲です。ギターがクリーンな音で、ベースラインが歌います。ギターソロが良いです。ベックにしては美メロのサービス旺盛です。
8, Livin’ Alone リヴィン・アローン
ファンキーでかっこいいフレーズが目白押しのナンバーです。
9, I’m So Proud アイム・ソー・プラウド
スローナンバーです。カーティス ・メイフィールド作の本当に綺麗な曲です。敬意を表して丁寧に歌います。
10, Lady レディ
この曲は本当に凄いとしか言いようがありません。
ドラム、ベース、ギターとも表に出たり裏に回ったりと聴きどころ満載です。
11, Black Cat Moan 黒猫の叫び
得意のトーキングモジュレーターで遊びます。ユー・シュック・ミーとか入れて楽しそうなのが伝わります。
12, Why Should I Care ホワイ・シュッド・アイ・ケア
レイモンド・ルイス・ケネディというSSWのナンバーです。元を知らないのでなんとも言えませんがこのメロディにはローリング・ストーンズっぽさを感ると思ったら夜をぶっ飛ばせに似ています。途中からギターとベースが掛け合い、続いて観客と掛け合います。
13, Prince / Shotgun (Medley) プリンス/ショットガン(メドレー)
ジェフ・ベック・グループのプリンスから力技でショットガンに持っていきます。もう好きにしてくださいとしか言いようがありません。凄いライブです。
最後、グッドナイトと言って去っていきます。
BBAの時のベックが見た目も一番ロック・アーティストらしい時期でした。
ずっとレッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズの言葉かと思っていました。
今となってはジョン・ポール・ジョーンズ説、ポール・ロジャース説、はたまたアニメ「けいおん」節まであって出自が不明なんですが
“ギタリストは2種類いる。ジェフ・ベックとそれ以外だ。”
という言葉が一番ジェフ・ベックを表現しています。
追記
2023年9月15日、新たに日本とロンドンのライブ、CD四枚組がリリースされました。歓喜!
スタジオ盤の音源です。
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