マイルス・ディヴィスの1969年2月リリースの「キリマンジャロの娘」同年の電化マイルスの始まりである「マイルス ・イン・ザ・スカイ」の次に発表されました。
リリース当初は完成度が低い、新しい音楽の模索などと賛否両論ありましたが、マイルスの場合は時間が経過して再評価される向きも多く、現在では過渡期の作品とされつつも高い評価を受けています。
「ビッチェズ・ブリュー」を知ればその過程での重要作品というものです。
前作から引き続いてのメンバーが4曲、ロン・カーターとハービー・ハンコックがデイヴ・ホランド とチック・コリアに変わったものが2曲あります。不思議なことにデイヴ・ホランド はアコースティックなコントラバスに戻っているんですね。そこら辺がマイルスの不思議なところです。過去は振り返らずに前進あるのみではなかったのかいな。
ちなみにタイトルについてはマイルスが「キリマンジャロ・アフリカン・コーヒー社」に投資した関係から来ているようです。それがあってもなくても、というかなんとなくイン・ザ ・スカイよりエキゾチックなものを感じられます。そうかそれは「ミス・メイブリー」があるからですね。と勝手に納得しています。
ジャケットはマイルスの2番目の妻だったソウル・ファンク界でカルト的人気を誇るベティ・デイヴィスです。
彼女はモデルでもあったので、ジャケットデザインも一級品となっています。音楽界からはすでに引退していたようですが、2022年2月9日にペンシルヴァニア州ホームステッドで亡くなりました。77歳でした。
このアルバムの質感は不思議とあまりエレクトリック・ファンクという感じではないんです。
全体的に静かです。最初の曲からしてホランドのコントラバスだし、同じメンバーで演奏される5曲目「ミス・メイブリー」はエレクトリック・ファンキーとは無縁です。そしてこのアルバムを聴くと次の「イン ・ア ・サイレント・ウェイ」がつながります。「イン ・ザ ・スカイ」からだと無理ですけど。
マイルスを聴いていて感じることがあります。
普通に音楽というのはどうしても時が流れとともに経年劣化していきます。次第に古くさくなり、初めて聞いた時でも新鮮な感動はなかなか得にくくなってくるものです。
でも私観ですがマイルス・デイヴィスの音楽はは不思議とそうはならないのです。しかも一度気になるとしばらくリピートする状態となったりします。
本質があるとすればなかなか理解し難いもので、というか言葉にできない音楽ということになるですが、時々聴きたくなる、繰り返し聴きたくなるという意味ではわかりやすい音楽なのかも知れません。(個人の感想です)
それとやはりマイルスを聴くにあたり音質は重要です。再生環境も含めてのことです。
オーディオにおいて、特にジャズはドラムは割と良く再生しやすい、チューニングしやすいと思います。ある程度良いアンプと良いスピーカーがあれば特に何もすることなく即すばらしい音が体験できます。合わせてテナーサックスやピアノもまたそんなに手をかけなくても良い音で聞こえがちです。
あとはアルトサックスが歯切れよく鳴って、ベースのドライヴが感じられ、トランペットが深い音で響けばジャズは楽しめます。聞いていて耳が疲れる、飽きるような音では真価は分かりません。
ジャズの録音は昔から音質にこだわってきた歴史があるので、特にLPレコードが登場した1950年代後半くらいからのものは割と今でも新鮮に聞こえます。当然楽器の音は今の録音とは違いますが、良い録音であるというのは十分に感じられます。そういう技術的なこととか時代性を思いながら聴くのも音楽の楽しみ方です。
実際にマイルスが音質云々にこだわっていたという話は聴いたことがありませんが、それはきっと戦略的に表に出さなかっただけではないでしょうか。音質とか楽器のこととかを細かく言い始めるとアーティスティックな面からスケールが小さくなってしまいそうだからです。(通常それがこだわりという形でいい方向へ向かう音楽家が多いのですがマイルスだけは違うんです)
スタイリストで自分の表現全てにこだわったマイルスが録音された作品の音質に興味がなかったとは思えません。
そういうめんどくさい人なんです。(好きですけど)
アルバム「キリマンジャロの娘」のご紹介です。
演奏
マイルス ・デイヴィス トランペット
ウェイン・ショーター テナーサックス
ロン・カーター エレクトリック・ベース Tr. 2,3,4,6
デイヴ・ホランド コントラバス Tr. 1,5
トニー・ウィリアムス ドラムス
ハービー・ハンコック エレクトリック・ピアノ Tr. 2,3,4,6
チック・コリア エレクトリックピアノ Tr. 1,5
チック・コリアはRMI(ロッキー・マウント・インスツルメント)というメーカーのエレクトラ・ピアノを使ったそうです。
曲目
*参考までにYoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Frelon Brun (Brown Hornet)
複雑なメロディ構成ですが、普通にかっこいい曲です。みんなでリズムのウラでウラで行こうとしている感じです。トニー・ウィリアムスのドラムはここでもすごい存在感です。
タイトルは茶色のクマンバチ、スズメバチのことだそうです。最後は唐突に終わります。
2, Tout de Suite (Right Away)
最後のホーンのまとまるところが綺麗です。マイルスはアドリブで展開していき、ドラムはそれにしっかりついていきます。編集のためでしょうが後半に2回ほど曲調が変わります。
3, Petits Machins (Little Stuff)
アップテンポになってきました。リトル・スタッフとあるので「マイルス ・イン・ザ・スカイ」の「スタッフ」と関連があるかと思いきや、なさそうです。ドラムのフィルはなんとなく似ていますが。
後半のハービーのソロがなんとか新しい試みを出そうと考えているのがわかります。最後はトランペットがちょっと歌って終わります。
4, Filles de Kilimanjaro (Girls of Kilimanjaro)
タイトルに合わせてか、ちょっとリリカルに演奏していて綺麗な曲です。ベースラインが面白く、シンプルですが聞き入ってしまいます。
5, Mademoiselle Mabry (Miss Mabry)
ドラムがエキゾチックな雰囲気を出しています。後半になるにつれスローでフュージョンぽい感じになります。マイルスのソロは試行錯誤しながら進みます。ジミ・ヘンドリクスの「風の中のマリー: Wind Cries Mary」をアレンジしたそうなのですが全然分かりませんでした。よく聞けばダ、ダ、ダ、と3連で上がっていくところは同じです。
6, Tout de Suite (Right Away)
トラック2をさらに伸ばしてきました。超スローバージョンとも言えそうです。遅くなる分、緊張感は高まります。
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