「唯一無二の個性を持ったブルーズ・ロック発のハードロック・バンド、フリーの代表的名盤です。」Fire and Water : Free / ファイアー・アンド・ウォーター : フリー

 1960年代後半、ロックはワイト島ロックフェスやウッドストックなどのイベントで世界的に注目を集めていました。
そして「サージャント・ペパーズ」や「クリムゾン・キングの宮殿」などの「ロック=不良の、ガキの音楽」という概念を超え芸術の域まで達したアルバムがリリースされ、世代を問わず認知度が上がっていった時代です。

その頃、英国からとっても個性的なバンドが登場しました。
ブルーズベースのハードなサウンドがウリのバンドです。

バンド名は「フリー」といいました。

「自由」と言っても・・・
例えばサンフランシスコのフラワー・ムーヴメントに影響されたサイケなバンドとかならこのネーミングも合っているのですが、こちらはブルーズをアレンジしたこれ以上ないくらいの地味・・・じゃなかったシンプルなサウンドに重いリズムでミディアム・スローな曲ばかり演奏するイギリスのバンドです。
なんとなくイメージが合いません・・・なんて個人的には昔から思っていた次第でもあります。

しかし彼らのサウンドは個性的で他に比較できるものや追従するものもなく、今でも独特の存在感を放っています。

わたくし的には何故かこの英国の「フリー」とアメリカの「グランド・ファンク・レイルロード」が同じベクトルで好きなんです。
両バンドとも最小編成でサウンドはシンプル、基本ブルーズ系、ベーシストが若くて天才的、などと共通点はあるものの質感が全然違います。
とっても英国的なフリーと、かたやとってもアメリカンなグランド・ファンク・レイルロードというところにまた痺れます。
グランド・ファンクもそのうちご紹介いたします。

そういえばもう30年ほど前のこと、その頃はフリーどころかその流れにある「バッド・カンパニー」ももうすでに無い状態でした。
よく会社の仲間内で居酒屋で飲みながら音楽談義をしていました。
ハードロックの話になって「フリーというバンドが好きだったんだよ」なんて言ったら、ロックに詳しい新入社員の後輩が「フリーですか、フリーって結構カルトなバンドですよね」と言ったので、そうか今の若い人にとってはカルトなバンドというイメージなんだ。としみじみ思ったものです。

当時はハードロックそのものが流行っていなくてアンダーグラウンド化していた感もあるのですが、熱烈なファンも多くLAメタルとかイングヴェイなど超絶スピーディーなハードロックが話題になっていた時期でした。
そういう時代にはフリーみたいなミディアム、スローで、隙間だらけで、尚且つヘヴィーな音は流行る余地は全くなかった時代でした。

返って今の豊穣な音楽が体験できる時代の方があの独特な、個性的なサウンドは支持されるような気がしています。
youtubeを見るといっぱい動画や論評が出てくるのです。

そんな古(いにしえ)のハードロックバンド「フリー」のご紹介となります。

ではフリーのサウンドとは、

まず音数が少ないです。

基本ギター、ベース、ドラムスのみのシンプルな編成です。さらにギターがシンプルです。
縦横無尽に早弾きで隙間を埋めるようなことはしません。
パワーコードでシンプルなリフを弾いているか、コードをジャーンと角鳴らすだけです。
ソロも速いフレーズはほとんどなく、やたらとハンドビブラートをかけて音を引っ張ります。
どちらかというとベースの方が動いている感じですな。
(でもグランドファンクほどではありません)
ドラムもシンプルなパワードラムでパワーはありますが音数は少ないです。
走るリズムというよりドッタカドッタカと押していくリズムです。
そこにソウルフルなポール・ロジャースのヴォーカルが乗ります。
この人もブルーズ、R&B、ソウルを感じさせる歌い方なのでハイトーンのシャウトなどは出てきません。

そんなハードロックバンド、フリーには今聞いても個性的で他では味わえない魅力があります。

ファーストアルバムはさらによりブルーズ寄りの地味なつくりでしたが(個人的にはこれも大好きです)この三枚目の「ファイアー・アンド・ウォーター」で「オールライト・ナウ」というヒット曲も生まれました。
と言っても母国イギリスでトップ5入りした、というくらいですけどね。
合わせてアルバムも今までよりは好調でイギリスで2位、アメリカでも17位とヒットしました。

しかし英国のハードロックバンド、フリーの真価は時代を超えて今でも残っています。

今聞いても驚くのはファーストアルバムからして熟練の味みたいなのものを感じるのですが、この時まだ全員十代でした。
ベースのアンディ・フレイザーに至っては若干16歳にです。

この翌年の「ファイアー・アンド・ウォーター」のリリース時もみんなまだ二十歳そこそこの年齢です。

フリーは1968年にギタリストのポール・コゾフがポール・ロジャースの歌を聞いた時から始まります。
そこにいっしょにバンド、ブラック・キャット・ボーンズを組んでいたドラムのサイモン・カークとジョン・メイオールのバンドにいたアンディ・フレイザーをジョン・メイオールの推薦で加えて結成されました。

ヴォーカルのポール・ロジャースはここからフリー、バッド・カンパニー、ザ・ファーム、クイーン、ソロなどで活躍しているブリティッシュ・ロックの重鎮です。
「フリー」でデビューしたての若い頃からヴォーカリストとしての評価は高いものがありました。
この人もブルーズが出発点で、1990年代にはソロでマディ・ウォーターズのトリビュートアルバムなどもリリースしています。またフレディ.マーキュリー亡き後のクイーンと一緒に活動したりしてもいますので、割と器用な方だと思います。
私はジミー・ペイジとの双頭ユニットだったザ・ファームあたりまでは聞いていましたがその後は詳しく存じません。
この人は奥様は日本人だったと思いますが、本人も髪を短くすると大工の棟梁みたいですごく日本人っぽい感じになります。

ギターのポール・コゾフはロンドン生まれのロンドン育ちです。
ジョン・メイオール・アンド・ブルースブレイカーズのエリック・クラプトンを聞いてブルーズ、ロックに目覚めたそうです。
得意技はトレードマークのギブソン、レス・ポール・スタンダードを引っ提げて、鬼ハンドビブラートで延々と音を伸ばす泣きのギタースタイルです。
9歳から15歳までクラシックギターを習っていたとのことですが、なんとも悲しいくらいギター奏法にその影響は見て取れません。
最初に「オールライト・ナウ」を聞いた時は、華麗で流暢な速弾き演奏とは真逆のスタイルに「これって上手いのか?」と一瞬ためらったものです。
しかし聞き込むほどに味が出るというか他にはないエグさを感じます。(褒めてます)
1976年3月19日、ツアー中ニューヨークに向かう飛行機の中で血栓による肺塞栓症で亡くなってしまいました。
まだ25歳でした。
2010年のローリング・ストーン誌による「史上最高のギタリスト100人」で51位にランクされました。
このことからもギタリストとしての評価、影響力は高いものがあります。
この人の顔つきはなんとも個性的で20歳代とは思えないくらい貫禄があります。

ベースのアンディ・フレイザーは天才肌のミュージシャンです。
5歳でピアノを始め、12歳までクラシック音楽の訓練を受けていたそうです。
このアルバムの5曲目、LPでいうとB面の1曲目に「ミスター・ビッグ」というアンディ・フレイザーのベースを大々的にフューチャーしたナンバーがあります。
最初に聞いた時、素直に「すげ〜」と感動しましたが、この時のアンディは日本で言えば高校1、2年の年齢です。
それを聞いた時はさらに驚愕しました。
しかもこのアルバムの曲ほとんどがヴォーカルのポール・ロジャースとアンディ・フレイザーで書いたものだそうです。
天才とはこういう人のことですね、と思わずにはいられません。

ドラムのサイモン・カークはポール・コゾフとバンドを初めて、フリー解散後はポール・ロジャースとバッド・カンパニーを結成して活躍しました。
その後も音楽活動は続けており、現在はNARAS(グラミー賞委員会)の理事となっています。
彼のスタイルはシンプルながらも力強い、まさにハードなブルーズロック的ドラミングが特徴です。

ということで聴いてみていただきたいと思います。

アルバム「ファイアー・アンド・ウォーター」のご紹介です。

ファイアー・アンド・ウォーター+6
ファイアー・アンド・ウォーター+6

演奏
ポール・ロジャース  ヴォーカル
ポール・コゾフ  ギター
アンディ・フレイザー  ベース、アコースティックギター、ピアノ
サイモン・カーク  ドラムス、パーカッション

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Fire and Water ファイア・アンド・ウォーター

ドラムのハイハットに合わせて今の時代では考えられないようなシンプルなギターの音で始まります。
そしてギターリフに畳み掛けるようにベースが入り、ソウルフルな歌が始まります。
途中、音数が少ないけどビブラートで異様に引っ張る例のギターが登場です。
これぞフリー!という魅力が詰まっているオープニング曲と思います。

2,   Oh I Wept オー・アイ・ウェプト

ポール・ロジャースとポール・コゾフによるナンバーです。これも派手さは無いものの名曲です。
いや、基本フリーに派手さはありません。
シングルヒットした「オールライト・ナウ」くらいでしょうか。
20歳くらいの若いバンドがこういうのを演るところに英国ロックの懐の深さ、面白さを感じます。

3,   Remember リメンバー

フリーにしてはメロディアスで明るい感じのナンバーです。
人気のある曲です。ポール・コゾフのギターソロがまたええ感じで、この半端な歪み具合が今となっては新鮮です。
この時代、いや今もそうですが、弾きまくらないギタリストで評価されるのは素晴らしいことだと思います。

4,   Heavy Load ヘヴィー・ロード

一番ポール・ロジャースの歌が生かされていると思います。
ピアノで始まります。ソロになるとこれまた個性的に積み上げていく感じでいい塩梅です。
ほとんどフィル・インなんか叩かないけど存在感のあるドラムに引き込まれます。

5,   Mr. Big ミスター・ビッグ

20年近く経ってからこの曲のタイトルにあやかった「ミスター・ビッグ」というハードロックバンドが登場します。
かなり後の世代に評価されている。そう思うとなかなかの影響力を持ったバンドだったと改めて感心するところです。
曲はドラムで始まります。ソウルフルな歌とギターカッティングで進んでいきます。
3分を過ぎたあたりで満を辞したようにベースのアンディとギターのコゾフが今までにない攻撃的なソロを繰り広げるところが聴きどころです。

6,   Don’t Say You Love Me ドント・セイ・ユー・ラヴ・ミー

前の曲で盛り上がった流れをクールダウンさせるようなしっとりと始まるナンバーです。
しかし次第に後半にかけて盛り上げていきます。
こういう曲はかなり実力がないと難しいのです。

7,   All Right Now オール・ライト・ナウ

ヒット曲の中でこれだけ聞く分には普通に地味な曲なんですが、このアルバムの流れで出てくるとハイテンポ、ハイテンションなナンバーに聞こえるから不思議です。
特にヒットチャートの首位を取ったとかではないのですが、フリーとしては貴重な大ヒットシングルです。
ベースによる展開もありドラムのサイモン・カークも他ではみられない煽りをしてくれます。

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