ビートルズ関連は名盤と言われるものが多いのですが、聴いているとなぜか本当に自分にドンピシャという曲に出会うことがあります。
この1973年リリースのジョン・レノンのアルバム「マインド・ゲームス」のタイトル曲「マインド・ゲームス」が私にとってまさにそれでした。
このいきなりサビで始めるような曲調といい、壮大な世界を思わせるサウンドといい、ラジカセで聴いている中学生でも十分に感動できるようなものでした。
ただ今の時代となってはジョンの曲の中ではそれほど評価の高い曲とはいえません。
でもわたくし的には「イマジン」より「スターティング・オーバー」より上位に位置するナンバーです。
毎日のようにレコード屋さんでジャケットを眺めていたのを思い出します。
地平線に巨大なヨーコの横たわるちょっと不気味なジャケットはインパクト抜群で、帯に堂々と「ヌートピア宣言」と書いてありました。
「あの “ネズミの化け物みたいなやつ” 宣言か」と思っていた・・・わけではありません。
それはヌートリアです。
だいたいその時代、1973年の頃はヌートリアという生物は、いたかもしれませんが誰も知らないようなマイナーな存在でした。
話を戻しまして「ヌートピア」というのはジョン・レノンとオノ・ヨーコが1973年4月1日に建国した「地球上のいたるところにあり、いたるところにない自称国家」のことです。
国旗は白一色のハンカチ(降伏宣言?)国家は「ヌートピア国際讃歌」、アルバム「マインド・ゲームス」の6曲目、LPで言えばA面ラストにある数秒間の無音の時間です。
今となっては1970年代らしい感覚です。
もし今の時代にジョンがいても同じことはやっていないと思われます。
そのジョン・レノンの音楽遺産の数々ですが、最近「マインド・ゲームス・アルティメイト・ミックス」が発表されました。
アルティメイト・ミックスのシリーズについては2021年4月の「じょんたま」、2023年10月の「イマジン」に続いての登場です。
興味をそそるのはどんな音にアップデートされたかということになりますが、聴いた感じ全2作の音とはまた違ったミックスになっている感じです。なんというか今回はキレのある低域をすごく感じます。
例えばオープニングの「マインド・ゲームス」です。
この曲というのは “循環コードにたたみかけるように刻むリズムを入れて突き進んでいく” という問答無用の、必殺の名曲です。
この曲は1969年の「ゲット・バック・セッション」中に「Make Love, Not War」というタイトルで作り始めていたとのことです。
私的にもビートルズ関連の楽曲の中ではかなり上位に位置しています。
2002年のCDリマスターの頃からだいぶ音が良くなってきたと思っていましたが、「ギミ・サム・トゥルース」バージョンではよりスッキリして力強くなりました。
ただ全体を覆うピャー、ピャ、ピャ、ピャーと鳴るウワモノキーボードが寂しくなった気もしてました。
今回のミックスは聴くと今までとは全く違って音が厚く、特にベースがくっきりはっきりしています。
ベースの音程、トーンもよくわかります。
そしてジョンの声です。
ラジカセで聞いていた頃からジョンはハイ気味で薄い声質だと思っていました。
曲が始まるとバックで流れているピャーという音と共にジョンの掠れてうわずった薄い声が聞こえていました。
もちろんそれでも十分に、他にはないかっこよさを感じていました。
最高のロックでした。
そして今回のリミックスを聞いてみるとすごいドスの効いた声になっています。
めちゃリアルです。今そこで歌っているような音です。
いろいろとご意見はございますでしょうが、アップデートの方向としてはいいことです。
特にドラムのフィルの迫力なんか、思わず笑ってしまうほど迫力が出ています。
アルバムの、曲のイメージがまた変わってしまいました。
1970年代のこのアルバムの制作過程がまたちょっと変わっています。
前作スタジオレコーディングとライブを合わせた2枚組「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」が散々な売れ行きでした。
政治的な内容に踏み込んでいる曲が多く、スタジオサイドではヨーコと交互にリードヴォーカルをとっていることが原因・・・と言いたいところですがそれは言ってはいけません。
そうは言わせないようにジョンは最後のアルバムとなった「ダブル・ファンタジー」で同じ手法でヒットチャートの1位を取り、仇をとりました。
でもまだです。
「サムタイム・・・」の2枚組のライブサイドがまた大変なのです。
あそこには普通の音楽ファンでは辿り着けない世界があります。
もちろん私も心底良さがわかっておりません。
スタジオサイドはポップでファンタジーなヨーコの曲も含めて愛聴していますが、ライブサイドは「コールド・ターキー」以降はいまだに「レヴォルーション9」を聴き通すくらいの覚悟が必要です。
このヨーコ主体のいきなりのチカラワザで前衛音楽をかましたライブがそうそう一般に受け入れられるとは思えません。
ジョンはこの状況をなんとか打開したいと思っていました。
プロデューサーとして付き合ってきたフィル・スペクターとここで縁を切り、自分自身でプロデュースしました。
オノ・ヨーコとは出会ってから最長の18ヶ月に及ぶ「失われた週末」と名付けられた別居生活を始めていた時でした。
(本人は辛かったでしょうがジョン・レノン・ミュージックのファンとしてはありがたいです。?)
1週間で収録する曲を書き上げたジョンはニューヨークのレコード・プラント・スタジオに入ります。
バックには1969年にヨーコと一緒に企画したメンバーを固定しないプロジェクト、「プラスティック・オノ・バンド」のメンバーを使いましたがヨーコとの関係が悪くなっていたためジョークで「Plastic U.F.Ono Band」と読んでいたそうです。
このアルバムのセッション中に「ロックンロール・ピープル」という曲も取り上げられましたが、アルバムには収録されず、ジョニー・ウインターに提供され、アルバム「ジョン・ドーソン・ウインター3世」のオープニングで陽の目を見ることとなります。
(ジョニー・ウインター様ヴァージョンです。ブルーズ魂溢れる熱い演奏です。)
そんなこんなでアルバムは仕上がり1973年10月29日にリリースされました。
アメリカではビルボード・ホット100で18位、イギリスでは13位にチャートインしました。
前作「サムタイム・イン・ニューヨーク」よりは売れましたが首位を狙うというほどのチャートアクションはありません。
思うに今となっては冷静にジョンの作品を聴いていられますが、当時一般リスナーからは「どうしたんだジョン、思想的に偏っちゃって、一体どこに行こうとしてるんだ」と「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」を聞いて思ったのです。
さらにFBIの監視対象となっていることもあり、「なんかヤベェヤツになりそうだ」と世界中から警戒されていた時期だったのです。
多分ヨーコの前衛音楽や思想に付き合わず、自分の音楽のみに専念していればだいぶ違ったとは思われます。(諸説あります)
実際いま「マインド・ゲームス」を聞いてみるとそんなに極端な世界では無いし、ジョン・レノンならではの素晴らしい曲が豊富で、音楽的にもまとまっている名作です。
アルバム「マインド・ゲームス」のご紹介です。
演奏
ジョン・レノン リードヴォーカル、バッキングヴォーカル、リズムギター、アコースティックギター、スライドギター、クラヴィネット、パーカッション
ケン・アッシャー ピアノ、ハモンドオルガン、メロトロン
デイヴィッド・スピノザ リードギター
ゴードン・エドワーズ ベースギター
ジム・ケルトナー ドラムス
リック・マロッタ ドラムス
マイケル・ブレッカー サックス
スニーキー・ピート・クライノウ ペダルスティール・ギター
ロイ・シカラ エンジニア
ダン・バルビエロ エンジニア
トム・ラブスタネック マスタリング
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。(2024 EXPANDED EDITIONです)
1, Mind Games マインド・ゲームス
力強い音になって帰ってきました。思わず笑ってしまう自分がいるのです。
2, Tight A$ タイトA$
ロックンロールです。こういう曲を歌う時のジョンの声はとってもマッチしていると思います。
3, Aisumasen (I’m Sorry)
ロックには珍しい謝罪の歌です。「ジョンの魂」で解説したように、さすが依存型芸術家ジョン・レノンなのです。
4, One Day (At A Time) ワン・デイ
軽く流したような曲ですが、そこはジョン、個性だけでも十分に聞かせます。「#9 Dream=夢の夢」に繋がります。
5, Bring On The Lucie (Freeda People) ブリング・オン・ザ・ルーシー
政治的なメッセージ・ソングですがサウンドはジョンらしいロックンロールです。ご機嫌なスライドギター。改めてこのアルバムは隠れた名曲が多いと感じます。
6, Nutopian International Anthem ヌートピア国際讃歌
はい、良くも悪くもこの時代のアメリカに住むトンがったジョン・レノンです。
7, Intuition インテューイション
ミディアムテンポのかっちりとまとまった曲です。改めてバックも最高の演奏です。こういうなんということもない曲調でもジョンが歌うと名曲になります。持っているものが違うんですね。きっと終わり方まで考えてなかったので、フェイドアウトしていきます。
8, Out The Blue アウト・オブ・ザ・ブルー
あなたがやってきて、人生の悲惨さを吹き飛ばしてくれた、という「マインド・ゲームス」と双璧をなす(と思ってます)名曲です。聴いているだけで泣きそうになる曲なんです。
4年後にブリティッシュ・パンクの出現を見たニール・ヤングは「Out of the Blue, Into the Black」と続けます。
9, Only People オンリー・ピープル
ポール・マッカートニーも同じような曲を作りそうです。などと考えていると二人ともさすが別格のメロディメイカーだと思わされます。
10, I Know (I Know) アイ・ノウ
「アイヴ・ガッタ・フィーリング」みたいなイントロですが、さすがにその亜流ではなく全く展開の違うオリジナルで完成度の高い曲に持っていきます。若干カントリーっぽさもあり、これも名曲です。
11, You Are Here ユー・アー・ヒア
“リバプールから東京へ”と歌い始めるヨーコと日本についてのジョン・レノンならではの「思えば遠くへ来たもんだ」ソングです。アルバムを通して特に考えなくても自然に強弱の流れを作れるところも才能です。
12, Meat City ミート・シティ
ラストは「コールド・ターキー」調のトンがった曲で終わるのですが、なぜかこのアルバムは全体を通して優しく温かいものを感じます。
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