御意!、殿下は気まぐれに一般庶民にもわかりやすい、受けるアルバムを作ってくれました。Purple Rain : Prince and the Revolution / パープル・レイン : プリンス・アンド・ザ・レヴォルーション

 最初に一言、このアルバムでプリンスを語るのはちょっと違うような気がします。でもアルバムとしてみた場合、音楽は完璧、極上です。

1980年代、プリンスは一躍この「パープル・レイン」というアルバム、正確には映画のサウンドトラック、で有名になりました。

それまでは評価は高いもののそれほどチャートアクションの上位を騒がすようなことはありませんでした。

ただ、業界内では話題になっていて、ローリング・ストーンズがツアーの前座に起用した時、メディアの質問に対してミック・ジャガーは「お前らにプリンスの本当の凄さはわからないだろう」と答えています。
1982年リリースの「1999」ですでにポップも見据えたギアにチェンジするようなイメージで上昇しつつありました。

そういえば後の1986年にザ・バングルスに「マニック・マンディ」を提供しましたが、最初聞いた時に「1999のオープニング曲だ」と思ったものです。

でも私はその頃からプリンスを熱心に聞いていたかというと左にあらず、実はあのブラック・アメリカン特有のこってりしたエロい感が若い頃はとっつきづらいものでした。「パープル・レイン」以降はまたイメージが違います。

そしてこの六枚目のアルバム「パープル・レイン」はMTVの台頭とともに売れに売れ、一躍時の人となります。

ただし、その後の音楽スタイルを見る限り、この路線は一枚で終わっています。

今から思えばプリンスはここらで一つ、大ヒットを作っておいた方が今後やりたいことがやりやすくなるから、くらいの感じで作ったような気がするのです。

プリンスのサウンドは彼の界隈を含めて「ミネアポリス・サウンド」と言われています。
個人的な認識でこのサウンドを語ると、基本的にはファンクサウンドですが、ファンクバンドにつきもののホーン楽器は使いません。(絶対ではありません)

その辺はシンセなどで代用している感じです。またファンキーなベースと打ち込みリズムみたいな感じでエフェクト処理したリズムがサウンドの核となります。

ホーンセクションを使用しないということでは1970年代のアイズレー・ブラザーズとかの流れも感じますが、よりリズムにエッジを効かせた雰囲気です。(この辺がデジタルならでは)
ということからも実は「パープル・レイン」はプリンスのサウンドとされるミネアポリス・サウンド的ではないのです。

これはとてつもない天才が平均的一般人さんのためにわかりやすいロックでポップな音楽を作ってみました。という感じです。

ヒットした「パープル・レイン」や「レッツ・ゴー・クレイジー」なんてちょっとクサさを感じてしまうような曲です。

これは悪いとかダサいとかではありません。

例えば世良公則&ツイストの「あんたのバラード」やもんた&ブラザーズの「ダンシング・オールナイト」を聴いた時、「すごいいい曲だ、かっこいい」と思うと同時に「あれ、これって演歌じゃね」と思った気持ちに似ています。

きっと染みついた伝統に触れている安心感もあるのです。(はいこれで年がわかると言うものです)

次作の「アラウンド・ザ・ワールド・イン.ア・デイ」を聴くと「パープル・レイン」とのつながりは感じません。というかロックっぽさがなくミネアポリス・サウンドです。

やはり「パープル・レイン」とはプリンスがその時の全感覚をフル活用して作ったものではなく、将来戦略の一つだったと思わざるを得ません。

プリンスは一つのアルバムに絞って解説するのは難しいミュージシャンです。

1980年代はプリンスとかマドンナとか、たいそうな名前のミュージシャンが活躍しましたがプリンスの場合、本名がプリンス・ロジャース・ネルソンと言って元からプリンスなんですね。

日本のファンは愛情を込めて「殿下」と呼びます。「王子」と呼ぶよりはあっている気がします。

そして殿下は時々、庶民の場所までわざわざ降りてきて、わかりやすい音楽を披露してくださるのです。
そしてわれわれ一般庶民は嬉々としてウレションしながら感謝の涙を流すのです。もうそう言う存在です。

実際に彼は知るほどに天才的なマルチプレイヤーで、歌唱能力も相当です。

2016年4月21日に57歳で亡くなってしまいましたが、死後2021年7月にリリースされたアルバム「Welcome 2 America」に収録された「Stand Up and B Strong」というソウル・アサイラムのカバーを聞いた時、改めて歌唱力を見直しました。エリサ・フィオリロとのデュエットで、一人で歌っているわけではないのですが、信じられないくらい素晴らしい歌唱が聞けます。
サウンド全般とてもかっこよく、この時は殿下が降りてきてくださっているので普通にいい曲です。

ギタープレイについてはビートルズの「ホワイトアルバム」でも触れましたが、2004年のロックンロール・ホール・オブ・フェイムのジョージ・ハリソンの追悼コンサートで「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」を演奏した時、途中からプリンスが出てきて超絶ギターを披露してその場を全部持っていきます。

客席に背中から倒れ込んでもちゃんと屈強なボディガードみたいな人が支えます。
このあたり、ジェームス・ブラウンからの流れを感じます。殿下のことですから降りてきただけかもしれません。
このギターソロシーンは全人類必見です。

https://www.youtube.com/results?search_query=prince+while+my+guitar+gently+weeps

ロッキング・オンのインタビューでエリック・クラプトンは最高の7人のギタリストの一人としてプリンスを挙げました。
クラプトンをして「ロックンロールが死んだと思ったときにリリースされた『Purple Rain』は、ロックが生き続けるために必要なエネルギーを注いでくれたようだった」と言わせました。

(ちなみに他の6人とはデュエイン・オールマン、マディ・ウォーターズ、ロバート・ジョンソン、ジミ・ヘンドリクス、ジョン・メイヤー、アルバート・リーです)

またクラプトンは、「プリンスは、リトル・リチャードとジミ・ヘンドリックスとジェームス・ブラウンが一つになった生まれ変わりだ。まさに、彼は世界が必要としている人だと思う」と最高の賛辞を述べています。

なんとまた別のインタビューでは「世界最高のギタリストと言われることについてどんな感想をお持ちですか?」との質問に「それはプリンスに聞いてくれ」と答えたそうな。

また、ローリング・ストーン誌が選ぶ「最も過小評価されているギタリスト」では堂々1位となっています。

マイルスも晩年、結構な頻度でプリンスの曲のフレーズを引用していたと言われます。

などなど考えるとこの人は多分私なんぞが一生かけても理解できないほどの深い才能を持っているということ以外はわからない存在なのです。

音楽を聴く上で、折に触れて殿下の教示を確認しないとなりません。
マイルス同様、時代に関係なく自分のペースで付き合っていくべき一生もののアーティストです。

音質についてはプリンスの1980年代アルバムは1980年代らしく軽い音で、低域の太さがもっと欲しい感じでしたが、2015年の「ペイズリー・パーク・リマスター・シリーズ」は殿下監修のもと、素晴らしい音質になっています。

演奏
プリンス  ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ピアノ
ブラウン・マーク  ベース
ウェンディ  ギター
リサ  キーボード、ピアノ
Dr. フィンク  キーボード、オルガン
ボビー・Z  ドラムス
アポロニア  ヴォーカル Tr.2

プロダクション
プリンス  プロデューサー兼アレンジャー、アートディレクション
デビッド・レナード  エンジニア
スーザン・ロジャース  エンジニア
ペギー・マックリアリー  エンジニア
デビッド・リプキン  エンジニア
バーニー・グランドマン  マスタリング
ローラ・リピューマ  デザイン

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Let’s Go Crazy  レッツ・ゴー・クレイジー

完璧です。誰でもノレてかっこいいと思う作りです。多分殿下からしたらお遊びですが、遊びでも全力投球しないと楽しくありません。殿下のロックなギターを満喫できます。ビルボードで最初のシングル「ビートに抱かれて」に続いて1位になりました。

2,   Take Me With U  テイク・ミー・ウイズ・U

ロック、ポップに寄せた作りです。80年代を感じます。ヴォーカルでアポロニアが参加しています。

3,   The Beautiful Ones  ザ・ビューティフル・ワンズ

ソウル寄りのメロディアスな雰囲気で始まります。この時代にはやった耽美的な印象で始まり、後半に盛り上がります。シンセの使い方が絶妙です。

4,   Computer Blue  コンピューター・ブルー

プリンスが一人で作ったサウンドだそうです。テクノ的なイントロに始まって、タイトル通りのナンバーです。懐かしのシンセのポルタメントなどが出てきます。打ち込みとシンセの多重録音で作ってあります。これについては時代を感じます。

5,   Darling Nikki  ダーリン・ニッキ

引き続き、これもプリンスのみで製作されました。トラック4の流れを続けてテクノ風ですが、ブレイクが多く面白い曲です。
この人はこれしかできないではなくて、これもあれも標準以上にできると思わせるところがすごいと思います。

6,   When Doves Cry  ビートに抱かれて

これもプリンスのみで製作されました。いきなりギターの引き倒しで始まります。聞いたことのあるような懐かしさを覚えるメロディの曲です。
プリンス初のビルボードNo1ヒットとなりました。

7,   I Would Die 4 U  ダイ・フォー・ユー

短い曲ですがうまく作ってあると思います。これも80年代風味満載です。

8,   Baby I’m A Star  ベイビー・アイム・ア・スター

最後の盛り上がりに掛けて助走が始まります。ロックもファンキーも取り入れています。

9,   Purple Rain  パープル・レイン

静かに始まってドラマチックに盛り上がり、大団円で締めます。完璧です。多分プリンスはこの手の音楽ならいつでも作れたのでしょうが、この後に同じ手法は使いませんでした。アーティストとしての矜持を感じます。
ドラマチックな大作ですが、シングルカットされてビルボードチャート2位になっています。

Bitly
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