「ロックを変えた若き才能」Tubular Bells (50th Anniversary) : Mike Oldfield / チューブラー・ベルズ50周年記念 : マイク・オールドフィールド

 マイク・オールドフィールドはいかにも英国らしさを感じさせる音楽家です。マルチプレイヤーです。1973年、19歳にして一人多重録音をこなしながらこのアルバム「チューブラー・ベルズ」を作り上げました。
この時代はまだ音楽メディアとしてはLPレコードしかありません。
パート1と2に分かれますがA面、B面合わせて1曲、49分18秒という大作です。
しかもヴァージン・レコードの発足第1号のアルバムとなります。

マイク・オールドフィールドの音楽活動は早く、10代半ばで学校をドロップアウトし姉のサリー・オールドフィールドと「サリアンジー」という名でフォークデュオとして演奏活動していました。
15歳の時アルバムを1枚リリースして解散しましたが特にヒットしたという記録はありません。

たいして実績もなく有名でもない10代の男の子の、LP両面通して1曲、演奏はかなりの部分が自演、という常識はずれのとんでもなさです。
しかも多重録音という技術はまだ始まったばかり、とっても貴重で高価なマルチトラックテープレコーダーをそんなワケのわからんガキに預けられるか。という声も聞こえてきそうです。
それをやったのが当時新進気鋭のベンチャー企業、リチャード・ブランソン率いる「ヴァージン・レコーズ」でした。

そして幸か不幸か映画「エクソシスト」の主題曲に抜擢され、空前の大ヒットとなります。

これについては、「いい話と悪い話があるんだが・・・どっちから聞きたい?」となります。
(ハードボイルド映画でよくあるセリフです、大体においてほんのちょっといい話の後に絶望的な展開が伝えられます)

いい話としてはエクソシストはその後何十年も続くオカルトブームの火付け役の映画となりました。
チューブラーベルズの旋律は映画の中では2つのシーンでしか使用されていないということです。
にもかかわらず見る人全てに強烈な印象を植え付けました。
いかに楽曲が強いか思い知らされます。
映画エクソシストは「悪魔のいけにえ」とか「オーメン」、「ゾンビ」シリーズに繋がっていき、オカルト映画というジャンルを確立します。
この大成功によりマイク・オールドフィールドは世界的に認知され、順調に経済的にも恵まれて音楽活動を続けられるようになります。

悪い話としてマイク・オールドフィールドが本来目指したイギリス的でトラディショナルでフォーキーで壮大な組曲というイメージは見事に消え去り、ただただ不安を煽るメロディとして定着し、不吉で怖い音楽の象徴となってしまいました。
当然私も映画の強烈なイメージしかありませんでした。

ただこれについては楽曲の強さが勝り、何年、何十年もの時間をかけて本来の魅力を評価されるようになります。成功に浮かれて世間に流されることもなかったマイク・オールドフィールドはこの後も「ハージェスト・リッジ」や「オマドーン」など質の高いアルバムを作り続けます。

1980年代にはヴォーカル入りのポップな曲「ムーンライト・シャドウ」や「トゥ・フランス」などをリリースしてマイクならではのセンスを披露しました。
また70年代後半から「ブルー・ピーター」とか「ウィリアム・テル序曲」などのファンにはたまらないニッチな音楽で楽しませてくれました。最後部にyoutube音源のリンクをさせていただきます。

今回、チューブラーベルズは50周年記念ということで今までLPレコード、CDと取り揃えてきた身としては感慨深いものがあります。振り返れば「チューブラー・ベルズ」から「マン・オン・ザ・ロックス」まで大体取り揃えています。

アナログ多重録音の時代の音がどうリニューアルされるかが楽しみで買ってみました。

2000年版リマスターCDとの比較になります。

アルバム「チューブラー・ベルズ 50周年記念」のご紹介です。

演奏

・マイク・オールドフィールド  
グランドピアノ、グロッケンシュピール、オルガン、ベース、各種エレクトリックギター、各種アコースティックギター、各種パーカッション、チューブラーベル、ティンパニ、ハモンドオルガン、スパニッシュギター、ヴォーカル

スティーヴ・ブロートン  ドラムス
リンゼイ・クーパー  ストリングベース
ジョン・フィールド  フルート
マンディ・エリス、サリー・オールドフィールド  コーラス

ヴィヴィアン・スタンシャル MC
合唱団

サイモン・ヘイワース  プロデューサー、エンジニア、マスタリング
トム・ニューマン  プロデューサー、エンジニア
トレバー・キー  アートワーク

機材
アンペグ 2インチ 16トラック テープレコーダー 
ドルビー ノイズリダクション・システム
274回のオーバーダビングと推定2000回のパンチイン


曲目
*アルバム全曲ではありませんが、参考まで最後部にyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Tubular Bells Part One チューブラーベルズ パート1
2,   Tubular Bells Part Two チューブラーベルズ パート2

音質がそうそう変わっているとは思えません。音源のせいかもしれませんが若干今風の歪感のないクリアーな音になってます。


3,   Thbular Bells 4 Intro (Demo 2017)

ロックに寄せてます。ベース、ギターが活躍するイントロです。


4,   Tubular Bells / In Duici Jubilo (London 2012 Olympics Opening Ceremony)

お祭りライブならではのいつもと違った派手な展開が楽しめます。ホーンも入ってます。音がすごく良く録音してあります。8:30あたりから「In Duici Jubilo」に入ります。


5,   Tubular Bells (Mike Oldfield & York Remix)

ダンサブルなアレンジです。マイク・オールドフィールドにこのリズムをやらせてはいけないはずなんですが。
というかファンはきっと誰も望んでません。


6,   Mike Oldfield’s Single (Theme From Tubular Bells)

これはこれで味のある演奏です。アイリッシュ、ブリティッシュトラッドを感じます。


7,   Tubular Bells (Pt.1 / David Kosten Stereo Mix)
8,   Tubular Bells (Pt.2 / David Kosten Stereo Mix)


ほとんど聞き分けられませんがギターのパートなど音が太くダイナミックになったことと、音像のセンターの定位感、奥行きが出たような気がします。左から右へ音像が移動する時、奥行き感が出たので弧を描いて移動するような感じです。


9,   Tubular Bells 4 Intro (Edit)

ギターのフレーズも練られてきています。


10,  Tubular Bells (Intro / David Kosten Stereo Mix)

愛情は感じます。丁寧な仕事です。もうお腹もいっぱいです。


思い出話をひとつ
1990年代、世の中にはまだスマホはなくアナログ携帯電話が全盛の時代の話です。ビジネスマンには必需品でした。
喫茶店で休んでいると、隣の席に若いサラリーマン二人で談笑しながら仕事の話をしていました。そこへ突然チューブラーベルズのメロディが聞こえてきました。オリジナルの音ではなくちょっと変わっています。

「ヤベェよ、またあの部長から電話だ」と一人が立ち上がってズボンのポケットから携帯電話を出しながら外に出ました。

彼は自分でチューブラーベルズの着信メロディを作って入れていたのです。そういうことも可能な携帯電話が当時流行っていました。

うん、わかるよ。その気持ち。と思って心の中でエールを送りました。 
きっと恋人からの着信音は違うと思います。

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