「ロックス」は1976年5月にリリースされたアメリカ、ボストン出身のロックバンド、エアロスミスの四枚目のスタジオアルバムです。
前作「闇夜のヘビィーロック」から段々と評価を上げてきていましたが、さらに極め付けとなるこのアルバムのリリースにより大物バンドとしての地位を築きました。
エアロスミスの第1期黄金時代です。
それまではローリング・ストーンズやジェフ・ベックグループなどの亜流と言われる向きもありましたが「ロックス」では完全にエアロスミスならではの個性、サウンドを確立したと言えます。
このアルバムの面白いところは普通のロック名曲と言われる、誰もが納得するようなかっこいいギターリフとかキメのフレーズはあまり出てきません。よってロックスタンダードとなるような超有名曲はありません。強いていえば「バック・イン・ザ・サドル」がこのアルバムの象徴でしょうがシングルヒットするような曲ではありません。
アルバムを通してエアロスミスらしいサウンドで勝負していきます。
ラストを飾る「ホーム・トゥナイト」だけは普通に名曲で、構成も定型的なバラードですが、明らかに本流とは思えません。ジェフ・ベック・グループあたりから続くハードロック・バンドの息抜きのおまけ曲という感じで入れてあります。
といってもこれがあるのでさらにアルバムの幅が広がりハードロックとしての価値が上がっています。
そしてアルバムを通してサウンドが独特です。エアロスミスとはセカンドアルバムからの付き合いであるプロデューサーのジャック・ダグラスの手腕によるところなのですが、とにかく音が厚く迫力があります。アルバムを追うごとに音が分厚くなってきてここらあたりの相性がピークと思われます。
次作「ドロー・ザ・ライン」ではやりすぎてオーバープロデュースとまで言われていました。今聴くとフィル・スペクターばりのハードロック版ウォール・オブ・サウンドで面白いのですけどね。
ちなみに翌年にはクリス・トーマスによるパンク版ウォール・オブ・サウンド代表、セックス・ピストルズの「ネバー・マインド・ザ・ボロックス」がリリースされます。
こういう音圧で飽和させるような手法はロックというジャンルではどの時代でも必ず誰かが挑戦するのです。
わたくし的にはスッカスカの音も好きなのですが、超ハードな音の塊にも迫力があって魅力を感じます。
アルバムのリリースされた1975年頃の洋楽状況というのは、パンク、ニューウェイヴ出現前夜です。
ロックも成熟して一般的にも認知され、音楽界でもビジネスツールとして浸透してきた頃でした。
SR技術も発達して大音量の大規模なコンサートも可能になっていきます。まだアナログの時代ですがマルチトラック録音も当たり前となりリミッターやコンプレッサーの質も上がって録音技術も格段に向上しました。
そしてレコード会社も広告を駆使して販売戦力を練り上げていました。
日本での洋楽ロックはキッス、クイーン、エアロスミスがロックの新御三家として話題になっていました。
うっすらとした記憶ではロックの御三家とはビートルズ、ストーンズ、アニマルズだったかもしれません。(いろんな説があり、自信ありません)
これは多分昭和の人にしか理解できない事象なんですが、歌謡界の西城秀樹、郷ひろみ、野口五郎の新御三家にちなんだものだと思われます。その前には橋幸夫さんとかの歌謡界御三家があります。元々の御三家の意味は江戸時代まで遡り、徳川家の云々というところから来ているようです。
この頃といえば、クイーンは「オペラ座の夜」キッスは「地獄の軍団」をリリースして、いよいよエアロスミスの「ロックス」の登場という時代でした。
当時の私は高校生です。その頃の学校ではどのバンドを支持するか明確に態度表明しなければなりませんでした。そこでお互いの勢力争いが勃発します。(高校生同士のローカルでマイナーな内輪話です)
アンチ・キッス派
「しょせん見かけだけ、ウケ狙い、金儲け主義、何よりロックの精神性が感じられん・・・」
アンチ・エアロスミス派
「演奏が下手、まんまミックとキースの真似してる、二枚目がいない、きっと女にモテない・・・」
アンチ・クイーン派
「大げさ、クドくてもたれる、なんか開放感がない、自意識過剰、見た目が少女漫画・・・」
などと言い合っていたものです。(結局はみんな、どのバンドも好きで聴いていたんですけどね)
もっとも大人になると「そうだよ。それが悪いか」で済まされてしまいます。
この3バンドはその後も残り続けます。クイーンは1991年、メインヴォーカルのフレディ・マーキュリーの死でバンドとしては実質終焉を迎えましたが、2018年にはフレディの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディー」のヒットによりリバイバルブームとなりました。
キッスもエアロスミスも2023年の今もまだ現役です。
キッスに至っては2000年あたりに「Farewell Tour」を行っていよいよ解散かと思いきや・・・しないのかよ、です。
いよいよ2023年12月のマディソン・スクエアー・ガーデンが最後のコンサートになるということです。
いやもうどうなってもかまいません。またいつでも心おきなく再結成していただきたいものです。
さて、肝心のエアロスミスは「ロックス」で押しも押されぬ超1流ロックバンドとなりますが、次作「ドロー・ザ・ライン」の後、メインのスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーが不仲となり、バンドは低迷していきます。結局バンドを離れたジョー・ペリーとブラッド.ウィットフォードは戻ってきたもののバンドは不調が続いていました。
そこを乗り切ったのが1986年、当時最先端だったラップの雄、ランDMCとの「ウォーク・ディス・ウェイ」の起死回生コラボです。この曲はエアロの1975年リリースの3作目「Toys in the Attic 邦題 : 闇夜のヘヴィ・ロック」に収録されていたナンバーです。
これを契機に再評価されて再浮上、1987年リリースの「パーマネント・ヴァケーション」が世界的なヒットとなり、第一線に返り咲きます。
それ以降は安定して大物らしく活動を続けていきます。
映画「アルマゲドン」の主題歌を歌ったりして以前より成功しているように見えます。
それをいうならアメリカだけで8,500万枚、世界中で1億5,000万枚以上売り上げた「アメリカで最も売れたハードロックバンド」だそうです。
でもわたくし的には初期1970年代の、演奏が危なっかしくて、なんか妖しさ満載で、何を考えてか「マザー・ポップコーン」(ジェームス・ブラウンのカバー)などを無理やり演っている時がハングリーで好きなのです。
アルバム「ロックス」のご紹介です。
演奏
エアロスミス
スティーヴン・タイラー ヴォーカル、キーボード、ハーモニカ、ベースギター
ジョー・ペリー ギター、ベース
ブラット・ウィットフォード ギター
トム・ハミルトン ベースギター、ギター
ジョーイ・クレイマー ドラムス、パーカッション
ゲスト
ポール・プレストピノ バンジョー 「ラスト・チャイルド」
プロダクション
ジャック・ダグラス プロデューサー、アレンジ
ジェイ・メッシーナ エンジニア
デヴィッド・ヒューイット リモートトラック・プロデューサー
ロッド・オブライエン、サム・ギンズバーグ アシスタント・エンジニア
パシフィック・アイ・アンド・イヤー アルバム・デザイン
David Krebs & Steve Leber (for Leber-Krebs, Inc.) マネージメント
曲目
*参考までに最後部にyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Back in the Saddle バック・イン・ザ・サドル
着想はカントリーだと思いますが、カントリー風味はありません。たたみ掛けるように盛り上げていって最後はハードロック・ヨーデルも聞こえます。
2, Last Child ラスト・チャイルド
静かに始まって歯切れ良いミディアム店舗に変わります。途中腰の力が抜けるような美しいメロディを入れるところがエアロらしいのです。
3, Rats in the Cellar ラッツ・イン・ザ・セラー
キメキメのフレーズはありませんが、焦燥感があってかっこいい曲だとずっと思っています。
4, Combination コンビネーション
この時期のアルバムらしい、ちょっとツェッペリンを意識したような重量級サウンドです。
5, Sick as a Dog シック・アズ・ア・ドッグ
バラードっぽく始まりますが、すぐにノリのいい店舗に変わります。個人的にはブリティッシュ・ハードロックを感じます。
6, Nobody’s Fault ノーバディズ・ファルト
ギターのギミック音が30秒くらい続いていきなりハイボルテージまで持っていきます。タイトルからしてこれがエアロ流のブルーズです。ぶちかまし感が好きです。
7, Get the Lead Out ゲット・ザ・リード・アウト
珍しくギターリフ主体の曲です。ライブで演ると面白そうです。そういえばエアロのライブは行ったことがありません。行った人にすごい下手だったということ聞きました。まあロックはテクニックだけではないところもありますから。
エアロも年齢を重ねるごとに上手くなっていったバンドです。
8, Lick and a Promise リック・アンド・ア・プロミス
ノリの良いロックンロール調です。すごくよくできた曲だと思います。
9, Home Tonight ホーム・トゥナイト
エアロスミスを象徴するような、アルバムに1曲のバラードです。すごい名曲ですがおまけ感を出してうまくメインのイメージから遠ざけています。珍しく泣きのギターソロもあるのです。
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